…目を覚ましたら、そこは古びた木で組まれた天井だった。


体を起こすと、自分の視覚がおかしいことに気が付く。


色が…ない。白と……黒しか、見えない…?


キョロキョロと見渡すと、一人の少女が洛子の向こう側を見つめていた。
あれは…死ぬ前の兎姫さま?あの時は、私よりお姉さまだったけど……今の私よりも小さい。
これは…夢?
小さい時の、頃の…夢…なんだろうか。


ズサッと畳の音を立てたら、兎姫さまが振り返った。


「どうしたの?兎姫さま」
「……………え?」


兎姫さま……?


「兎姫さま?」
「…あ、い、いや………」


どういうことなんだろう、これは。
小さな兎姫さまは「あっ」と声を上げて、私に駆け寄ってくる。


「おにぎり、作りましょう!」
「おにぎり…?」
「今日も白夜叉さま達に渡さないと、ね」
「……う、ん」


白夜叉さま。
つまり、銀時さまが………今そこにいるっていうの?


「さ、作って」


私は兎姫さまに押されて部屋の台所に向かった。
おにぎり…作ればいいのだろうか。
もくもくと三角型のおにぎりを、ボーとしながら作っていると、兎姫さまが目を輝かせながら私を見た。


「上手だね、兎姫さまは」
「……う、ん」
「…兎姫さま?どうしたの?今日、何か変だよ?」
「そんなことないっ!大丈夫よ」


とにかく。
夢の中の"私"は兎姫さまになっていて、小さいころの兎姫さまは……あの時の…"私"?
だとしたらこれは……この、夢の中が、銀時さまに会える…最後なのかもしれない。


「ねぇ、伊智」
「なに?」


兎姫さまに自分の名前を言うのっておかしな気がしたけど、やっぱり兎姫さまは疑いもなく私に返事をした。


「…………今日は私が届けに行きたい」
「えっ」

びっくりした兎姫さまが私を見つめた。
涙を堪えながら、最後のおにぎりを握る。

「怒られちゃうよ」
「大丈夫。大丈夫よ。ねっ、お願い。大丈夫だから」

私は何度も"大丈夫"と答えた。
どうせこれは、夢の中。
夢の中でくらい、最後の最後に銀時さまと話をさせて。顔を見させて。
兎姫さまは、小さくため息をついて「わかりました」と答えた。
そして、化粧をしてもらった。
化粧をするのはこれで2度目…。あの、ハタ皇子に連れ去られて以来だね。


「そこの道真っ直ぐいって」
「分かってるって!いってきます」
「はぁ……もう」


祭りが今行われてるわけではない。だって夢の中だから。でも、やっぱり怖いからどうしても村を出る時に足が竦みそうになった。


そうして私は村から出て、すぐ近くの廃寺まで駆けて行った。





- 61 -

[] []
back