「あ、あのぅ……」 「おお可愛いじゃねーか」 「か、かわ…いい……」 「髪も乾かしたみてーだし、寝るか」 「ね、寝る…!?あの、私はどこへ…」 「俺と一緒がいい〜?」 ふざけた調子で聞く銀時に、ポンッと伊智は顔を赤くさせた。 「さすがに布団は別々だけど。わりーけど銀さん今腰痛くてソファで寝れねーんだわ」 「じゃあ私がソファで」 「子供産むからだに無理させんなって。おら寝るぞ」 「お、おわっ…」 首根っこを掴まれながら伊智と銀時は寝室に入った。 そこには既にお布団が二つ敷いてあって、銀時の気配りのよさに伊智は小さく感動した。 「俺の昔話に付き合ってくんねーかな」 「は、はぁ…」 布団にごそごそともぐりながら、銀時は上を見た。 伊智は目を瞑りながら、銀時の方を向いて耳を傾ける。 「昔好きな女がいた」 「え…」 「でもそいつは、村の厳しい掟ってやつに縛られながら生きていた。俺だったら耐えられねえような、逃げ出したくなるような掟にちゃんと向き合いながら…そいつはいつも俺の前で笑っていた」 「……」 「師を亡くした俺は、暫く笑顔ってモンを忘れちまったらしい。無愛想にいつも空を見て、そいつとロクに話もしなかった」 「へぇ…」 「でもそいつはいつも俺に変わらない笑顔を見せてくれた。こいつ、ただの能天気なバカじゃねーの?って思ったこともあった。そう問いかけても、あいつはへらへら笑って…"バカですよー"って言っちゃってさ。そん時俺初めて"バカっていいな"って思った」 そっと伊智は布団を頭のてっぺんまで被った。 そんなことを構いもせず銀時はまた口を開く。 「バカはバカなりの生き方がある。俺だって前までそうだったじゃねェか。バカなのに、こんな一丁前にメソメソしてらんねー。……そう思った」 「………」 「そんな時、そいつの村が壊滅状態に陥った。裏切り者がいたらしい。俺達が救援に駆け付けた時には既に、地獄絵図のようになっていた。俺ん中の獣が騒いでいる気がした。…俺は、闘いながら……無性にただアイツを探し続けた。名前を叫んだ。…でもそいつはどこにもいなくって、俺は疲労が重なって帰ることにした。…戦が収まっても、あいつは結局姿を見せなかった。俺は結局護れなかったのか、と思った。大切な人をまた護れなかった…って自己嫌悪になったわ。けどよォ、目が覚めたら…そいついんだわ。目の前に。あれこれまだ夢じゃねーかなーって思った。でもよ、そいつがポロポロ零してる涙の雫が俺の頬に落ちて冷たく感じたから夢じゃねーって分かった。こいついつも笑ってんのに、なんで泣いてんだ?と思った。あんなに会いたいと思っていたあいつは、泣いていて。でもよォ、そいつ何したと思う?ホントバカなんだけどさァ」 「……っ」 「泣きながら、笑ってボロッボロのおにぎり渡してくんの。あん時ほど"うわこいつバカだ〜"って思ったことはないね。うん。泣くのか笑うのかどっちかにしろよ、って思ったけど……俺の大好きな笑顔はちゃんとそこにあった。初めて握り飯食ったなー…あいつのおにぎり。泥だらけで、何の味かもわかんなかったけどよォ…口ん中に種が残った。これ梅かァ?って思ったわ。だってめちゃくちゃ甘ェんだもん。なんで甘いかっつったら、梅入れたおにぎりに塩加えようと思ったらしくてさ、それが砂糖って知らずにドバドバ入れたんだってよ。ホンットバカ」 [←] [→] back |