「、すみません」


部屋に通してもらった伊智は、深く頭を下げた。


「……頭を、上げろ」

「…」

「確かに、約束もしないで勝手に訪れた私にも非があった。すまない」

「あ、いえ……」

「………銀時のことを、好き…なのか?」

「ええ。…心の底から、愛しております」

「そうか…」


月詠はゆっくりと煙管の煙を吸った。



「初めてあいつに会った時…今と変わらぬ、死んだ魚のような目をしていた。だが…鳳仙と戦ったあいつは、何か獣のような目をしていた。ホント…よくわからん男だ。…また、あいつに世話になった時…。わっちの見たことのないあいつがいた。いつもより優しげな、一人の漢の目をしていた。その時―ああ、こいつにもやっと、傍から離れられないものが現れた…そう思った」

「……」

「あの時銀時が、わっちに優しい目を向けてくれたのも…逞しい腕で支えてくれたのも…主がいたからなのだろう」

「わたし?」

「人は誰でも、愛しい人ができればその人を守ろうと必死になる。わっちも、銀時を守りたかった…。だがあの男は私の腕一つでは到底支えられない」

「え…」

「主にはピッタリじゃ。あの男」


月詠は優しく微笑んだ。
伊智を一瞬眉根を下げ戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに顔を引き締めて睨んだ。



「同情なんて望んでない。なんで?もっと、泣き叫んでよ。泣き叫んで、私には勝てないってことを分かってよ!!!!!そんな…なんで、余裕ぶって…大人だからって、バカにしやがって…」

「お前さんの悪い所じゃ、な」

「はあ?」

「すぐ吠えるところ。まるでワンころじゃ」

「………うるさい」

「いいか、主には同情などしておらん。むしろ腹立つ〜…って、思ってる。でもこれくらいで泣いて、喚いて、縋りつくほどわっちは暇じゃないんじゃ。銀時は今もわっちの友達、じゃ」

「綺麗ごと言いやがって」

「綺麗ごとでもなんでもいい。……主、謝りに来たんじゃないのか?」

「……あ」

「…ぷっ…くくく」


月詠は手を口元に置いてクスクスと笑った。



「な、何笑ってるんですか…」


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