「ただいま帰りましたー」 「伊智−いるアルかー?」 「おー伊智。今日は焼肉食べ放題にいくぞー」 「ごはんですよニュイーンってやるアルよ!!」 3人は靴を脱ぎながら話しかけるが、いつもは聞こえる伊智の声が今日は聞こえなかった。 なるべく早めに帰ってきたつもりだけど、自分の家に帰ってしまったのだろうか。 新八はそう思いながら居間の引き戸を開けた。 「!!!!伊智さんっ」 「どうしたメガ…ネ?伊智?どうしたネ!?」 「新八、伊智どかすからそれ片付けろ。あー…神楽、お前は危ないからソファの上で座ってなさい」 「嫌ヨ!私もついてくヨ銀ちゃん!」 水たまりとガラスの上で寝そべる伊智を抱えたら、自分の掌にも小さなガラスが刺さった。 とりあえず服脱がしてガラス抜いてやんねぇと…そう思った銀時は神楽に救急箱を出すよう命じた。 「何してんだよコイツは…はぁ」 今日は久しぶりに大金が手に入ったから、みんなで食べ放題に行こうという話になった。 新八が「伊智さんも一緒に行きたいですね」とか言うから自然と話は一人加わる事になっていた。 おいおい銀さんお金あるのかねー…そう思い、なんだかんだ言って楽しみな自分がいた。 まァ途中でエレベーター止まって新八も気ィ失っていろいろあったけどよ、やっと帰って来れたわけよ。 それがこの様?今日なんか悪い事起きるんじゃないのこれ。 伊智をうつ伏せにさせて、こちらからは下着が見えないように手を回して着物の帯を解いた。 銀さんなりの気遣いだって。感謝しろよな。 「うわ…これ病院連れてった方がいいか」 「銀ちゃんもってきたヨー」 「銀さん、これお酒みたいですよ。ウチにはお酒ないはずなんですけどね…」 「飲みたかったんじゃないのー、伊智が」 神楽から受け取った救急箱から消毒液とガーゼと包帯を取り出した。 こういうのはお妙にやらせたほうがいいかもしんねぇけど、もう夜も遅いし。 銀時はタオルで傷が広がらない様に血をふき取って、消毒液をかけた。 「―っ……う」 「あ、伊智大丈夫か!?滑って転んだか!?」 「あー神楽。水とってきてやれ」 「うす!!」 「伊智さん大丈夫ですか?一体どうしたんですか」 「あ………おかえりなさい…」 顔を横にして、苦しそうな伊智が笑った。 眉毛を下げて引きつった笑みを見せられたのは初めてで、新八は少し戸惑った。 「あ、大丈夫ですよ。すぐに治療したら痛くなくなりますから!」 「そんで、なんでああなったわけ?」 「え…と、……ぎ、銀時さまっ…月詠って女、誰ですか?」 「月詠?あぁ、アイツ?ちょっとな」 「……ちょっと、」 「ツッキーがどうしたヨ伊智−。はい水」 「あー、そこ置いとけ」 「うす!!!!」 「で、月詠がどうしたんだよ」 「今日………来てくれて、お酒を持ってきてくれて…。でも……私っ…銀時銀時とあの人がうるさくて耳障りだったから………今日は帰ってもらったんです」 「はァ?あの女が俺の事そんな言うわけねーだろ」 「どうしたんでしょうか月詠さん」 「あれだ。この前飲みに行った時に約束したんだよ。高い酒くれって」 「約、束……?」 「あぁ。ていうか…耳障りって」 「そうですよ伊智さん。月詠さんはそんなに喋らない人だと思うんですが…大人な方で」 「なんだ伊智ヤキモチアルかぁ?ええ?」 「お前はそのニヤニヤした顔やめろ」 3人はそれから月詠さまの話題で盛り上がり始めた。 私の周りにいるのに、私だけ置いてけぼり。 私が中心にいるのに、私だけ一人ぼっち? 「あ、あのっ……。銀時さまは、そんな…ないですよね。月詠さまの事を好きとかそういうのは…」 「えー?まあ、嫌いじゃねェよ」 「銀ちゃんツッキーの胸わし掴みしてたよナ。そういえば」 「今更そんな話引っ張ってくんな!」 「なんだかんだ言って仲いいですよね、お二人とも」 「え?あぁ…まあ、年も割と近いしな。さっぱりしてるし」 「私は嫌い…」 「え?」 「私はあの人……大っ嫌い…。銀時銀時銀時…なんなの。私に見せつけに来たのかな。私をバカにしにきたのかな。こんなに一生懸命、銀時さまに尽くす私に対しての冒涜よね、これは。信じられない。大体女なのに男みたいに煙管もって、かっこつけたいのか知らないけど…。目の傷も気持ち悪いし」 「伊智さん!!!!!!!!!!」 「何…?新八くん」 「言っていいことと悪いことがあります!!!僕たちは、月詠さんの事を悪くいいません。最低ですよ…」 「伊智…いくらヤキモチやいても、それはダメヨ。女はそこまで落ちたらもう負けも同然ヨ」 「どうしたの?皆……だって、思わないの?うざくないの?迷惑じゃないの?」 「うざいのはお前だろ。どっちかっていうと」 銀時さまの低い声が響いた気がした。 「え?」 「あの女の事知らねェで見かけだけで語る奴なんていらねーんだよ。気持ち悪い? なに言ってんだよ。アイツの面(ツラ)は…痛みも苦しみも全部知った、綺麗な顔してんだよ」 「っっ………」 「勘違いするな」 銀時さまはそれだけ言って寝室から出て行った。 新八くんも神楽ちゃんも、最後まで処置はしてくれたけど結局誰も言葉を発さなかった。 なんだろう。何がいけなかったんだろう。 私は知らないよ。そういう、万事屋の…この町の住人だけのルールもなにも、知らないよ。 確かに綺麗な人だった。でも、それを銀時さまから言われると…………もう真っ暗だよ。 私は勘違いしてただけだったのか…そっか………。 傷む首を動かして、枕元に顔を埋めた。 111122 ツッキー信者ごめんなさい あと時間バラバラです。吉原⇒これの1話⇒地雷亜⇒6話⇒ちょっと原作 気にしないで見ていただければ幸いこの上なしです。 [←] [→] back |