私は雨が降りやまない中、村に戻った。
人は誰もいないと思っていたけど、30人ほどの人は私のように生き残っていていた。
その中には、あの柴田勝也もいた。
柴田家で唯一生き残ったのは私と勝也だけだった。
私は村の人に強く問い詰めて、昨晩の出来事を洗いざらい吐いてもらった。



兎姫さまが十字架に磔にされ、神御越しが始まる直前だったよ。
勝也さまの隣にいた信元さまがいきなり神主を刀で襲いだしたのさ。
まるでそれが合図とでも言うかのように、外から天人がやってきた。
天人たちは村人を襲い始めてね、もちろん村は混乱状態。
勝也さまは素早く屋敷にお戻りになったが、それ以外の柴田家の人は屋敷に鍵をかけられてしまい逃げることはできなくなっていた。
信元さまは最初から天人側についていたのさ。
信元さまは一つの農家に火をくべ、それがだんだんと家を伝っていった。
焼き殺される奴もいたよ。斬り殺されたり、噛み砕かれる奴もいた。
しばらくして誰もいないはずの廃寺から人がやってきた。
そいつらはここ最近やってきた攘夷志士で、天人を全てやっつけてくれたよ。
そいつらが去った後さ、本当の地獄が待っていたのは。




「………っ うう……」



最後の生き残りが松明を持って、磔のままになっていた傷だらけの兎姫さまの足の裏に火を近づけたのさ。




『おい女。ほかに生き残りはいないんだろうな?』


『っ…ああぁぁぁ!』


『………もうそれ以上はやめておけ』


『うるさい信元。お前は俺達に協力してくれただけで、何も仲間とは言っていないのだからな』


『分かってる』


『屋敷の方にもいねぇんだろうなぁ?』


『っううぁぁぁ!………い、……いないよ、』




天人はずっと足の裏の近くに松明を置いたまま、村中を探索し始めた。
その間に信元さまは村を出て行ってしまった。兎姫さまに何か言葉を残して行ったが、それが何かは分からない。
天人は俺の隣家に住んでいる生き残りの女の首根っこを掴んで兎姫さまの元に戻っていったよ。




『お前…嘘ついたよなぁ』


『………知らなかっただけだ』


『ふん』


『いやっ…いやっ…あぁぁあぁぁぁぁ!』




天人は女を松明で燃やして捨てた。兎姫さまも私も、ごくりと思わず固唾をのんでしまった。
そんな時だった。




『おい!!!!誰かその女を殺せ!!!今すぐ殺すんだ!!』


『!?誰だお前!!!!』


『…っお、とうさま』


『村に悪魔を引き連れてきた、その女を今すぐ消せ!!!』



勝也さまはおびえた表情で、屋敷の屋根からそれだけ叫ぶとまた戻って行った。
天人は屋敷に入ろうと試みたけど、頑丈な鎖が巻いてあって入ることができなかった。
舌打ちした天人は兎姫さまが磔にされている十字架を蹴り上げたよ。




『二度目はもう…きかねェんだよ………!』


『っ……』


『アイツが言ってたんだ。お前はいらないんだよ。死ね!!!!』


『あぁぁぁぁあああああああ!!!!』


後は……今も見て分かる通り、真っ黒焦げになるまで焼かれた。
時折聞こえる断末魔はまるで自分の心に響くほど大きかったよ。
悪いけど、俺が知っているのはそれだけだ。





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