朝。 小鳥のさえずりと、焦げ臭いにおいで伊智は目を覚ました。 額に手を当てると、微かに熱く感じた。 信元の言うとおり、伊智は少し風邪を引いていたみたいだ。 鼻を啜って部屋から出て、伊智は外に出た。 「………え?」 外には何もなかった。 何もなかったというよりは、ただの焼け野原だった。 屋敷の右半分の母屋が焼失、村の家もほとんどは跡をなくして、中央にある十字架の木はまだ火が消えていなかった。 「……」 伊智は状況が理解できなかった。 十字架がある中心部に駆け寄って、張り付けてある黒い物体を茫然と見上げた。 『お姉ちゃんって呼びなさいよ』 『よろしくね、伊智』 『伊智も一緒に入ろうよ』 『好き、かも』 『ねぇ、おいしいかな?このおにぎり』 「…い……いっ…いっ…」 この人は 死んでいるの? 生きているの? 『曖昧に答えたくないの』 「いやぁぁぁぁぁっぁ!!!!!!!!!!!」 伊智は我武者羅に村を出て山中に走って行った。 『ちょっと伊智−、帯が裏返ってるじゃない』 「いっ…いやっ…!!!いっ…!」 『白夜叉さまと言うのね…。素敵なお名前』 「ひぐっ………ううっ!!!いやぁっ…!!!」 『白夜叉さまに、会えたのに…』 「あぁっ……あぁぁぁ……」 『殺したも同然よ』 「もうっ…やめて………」 『こんな…人との接し方を忘れた私の事を』 伊智は土の上に膝をついて、頭を抱えてしゃがみこんだ。 雨がぽつぽつと体を濡らしていく。 脳内では、聞いたこともないような兎姫の恐ろしい声が再生されていた。 [←] [→] back |