「伊智!!!!!」

「はい?」

「兎姫をどこに隠したんだ!!!!」


兎姫が柴田を出てから3時間後、外掃除をしていた伊智は勝也に首根っこを掴まれ家に戻された。



「……言いません」

「お前が連れ出したんだろう!なんて……なんてことをしてくれたんだ!!!!」

「と、兎姫さまはずっと…外に出たいとおっしゃっていました。生まれて一度も屋敷から出たことがないのですから、一度くらいは」

「他人がうちのことに干渉するな!!!!!!!!!」

「っ……」


勝也が大声で怒鳴って、伊智は思わず肩を揺らした。


「あと、あと………あと8年!!!8年だったのに!8年もたてばあの子もやっと解放されたのに………!!全てが台無しだ!!!あぁ…あぁ………神よ…」

「っ…え、え、っと」

「今すぐ兎姫を連れ戻してこい!!!逆らえばお前の首をはねるぞ!!!!」

「はっ…はい」


伊智は足がもたれながらも家を飛び出した。
8年とはどういうことなのか。解放とは、何からなのか。色々な疑問が頭の中に生まれた。
がむしゃらに走った伊智は、寺の中で桂たちと楽しそうに会話をしている兎姫を見つけ右腕を掴んだ。


「!?きゃっ……伊智?どうしたの、」

「今日は珍しく来なかったじゃないか、伊智」

「いやしかしうさぎひめはお美しいのう!ガッハッハ!」

「……」


以前右腕を掴む伊智の顔は俯いていて、表情が取れない。



「?伊智?」

「……んで」

「どうした、伊智」

「なんで!!!!!!!!!!!!」


パァン!!



「―――っ」



寺の中が静まり返った。
皆が注目する所には、頬を赤くして倒れる兎姫と、顔を赤くして涙を耐える伊智がいた。
坂本は口をぽかんと開けてそれを見つめ、桂は心配そうな表情で伊智を見る。
寺内の隅に腰かけていた高杉はそれを遠目に見て笑い、縁側にいた銀時は中に目もくれずぼんやりと空を見ていた。




「今日はごめんなさい。ご迷惑おかけしました」

「あっ…!」

「伊智っ…」



桂の呼びかけには振り返らずに、兎姫を引きずって伊智は帰って行った。





「見たか、銀時。お前の惚れてる女の姿」





誰もが声を発しない中、高杉は縁側にいる銀時に話しかけた。





「あぁ。…んまそーだよな、あの雲」

「くくっ…素直じゃねぇ」




二人の会話は大きい声ではなかったが、確かに全員の耳に届いていた。


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