「こんにちはー」

「あ、来た来た」

「今日は何味だよー」


毎日、朝に兎姫がおにぎりを作って、伊智がそれを届けるのが習慣になっていた。


「白夜叉さまっ!」

「あ?」

「はい、おにぎり」

「いらねぇよ」

「え、でも」

「今腹いっぱいなんだ」



だけど白夜叉さまだけはおにぎりを食べなかった。一度も。
ど、どうしよう………兎姫さまの好きな人は



「おかえり!で、白夜叉さまはどうだったの?」

「おいしいって言ってたよ!」

「そう!よかったぁ…」



白夜叉さまなのに。




私はその事実を言い出せずに、ずっと兎姫さまに嘘をついてきた。
兎姫さまの本命は白夜叉さまで、白夜叉さまはおにぎりを食べてくれなくて、私はその中立の立場にいるのがいつももどかしかった。




「ねぇ、伊智」

「なに?」

「…………今日は私が届けに行きたい」

「えっ」


びっくりして兎姫を見つめた。
兎姫は泣きそうな顔をしながらおにぎりを握っていた。



「怒られちゃうよ」

「大丈夫。大丈夫よ。ねっ、お願い。大丈夫だから」



兎姫はあの日何度大丈夫と言っただろう。最終的には伊智が折れ、兎姫は生まれて初めての化粧をした。


「そこの道真っ直ぐいって」

「分かってるって!いってきます(小声)」

「はぁ……もう」


伊智は兎姫を見送って、屋敷に戻った。
別に柴田家から出すくらい大丈夫だよね。…大丈夫大丈夫。







だけど私のこの判断のせいで、村が壊滅することになるとは思わなかった。





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