「ねっ、お願い!コレ持ってって!」

「なんで私が…」

「いいじゃない!私はここから出られないんだから、早く!」

「えぇ…」

「行って来なかったら一生話してあげないわ」

「いってきます!」


大好きな兎姫と話せなくなるのは御免だ。
伊智は渡されたたくさんのおにぎりを持って村を出た。



「あ、あの」

「お?お客さんか?」

「は、はい」


いざ話しかけるのはやっぱり恐ろしい。
伊智は寺の前で寝ていたもじゃ毛に勇気を振り絞って話しかけた。
もじゃ毛はにかっと太陽みたいな笑顔を見せて、伊智の手を握り寺まで入れてくれた。



「可愛らしい女の子じゃのう。誰に用じゃ?」

「皆さんにあるんですが…」

「ほう?じゃあ皆集めようか。おーーーい!」

「え…?(誰がそんな古典的な)」

「ほらお前さんも!名前は?」

「柴田伊智です」

「よし!えっとー………可愛い女の子がおよびじゃー!!」

「(結局覚えられねェのかよ)」

「金時ー!高杉ー!小太郎ー!」

「だから、誰が金時だってーの」



奥の方から白髪頭の人がやってきた。そのあとに続くように、ゾロゾロと人が集まってきた。



「あ?誰だコレ」

「可愛いー」

「あ、いや…えっと」

「ほんでなんじゃ?」

「俺らに何の用だ」

「私、隣村に住んでいる者です」


どうせさっきのもじゃ毛のように名前忘れられるだろうから、名前は伏せておいた。


「で?」

「私が仕える兎姫さまから、皆様におにぎりを渡せと言われまして」

「女子からの贈り物とは…態々ここまで、忝い」

「い、いいえ…」

「これ毒入ってんじゃねーだろうなぁ」

「入ってません!」



これが始まりだった。


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