...


ねぇ




綺麗だ






オレはじっとお前の事を見詰めていた
助けを求めるような顔もせず
焦点の定まらない瞳でお前はオレを呼んでる

此処にいる、と頬に手を添えると、涙がオレの手を汚した
いや、汚したと言うにはあまりにも綺麗だ
涙を十分に含んだ瞳を見詰め返しながら、お前の瞳から流れる「痛み」を拭ってやる



「苦しいのか……?」 

 

『あか、ぎさん……』



女がこんなに泣くなんて、余程苦しいに違いない
オレを呼ぶ声も掠れ掠れだ
もっと声を聞いていたいと望むオレの脳内
露出したお前の腕を手に取りながら、ゆっくりと撫でるようにして真っ直ぐ線を描かせる
早く、早く楽にしてやりたい
柄じゃないその一心で、お前を助けたかった



「ん、なに……?」



『おにいちゃんは、いつ、かえってくるかなぁ……?』



「…………」



その言葉に思わず手を止めてしまう
答えがオレの中で見つからなかったからだ
弱々しい声で途切れ途切れの言葉を発するお前の手はオレの腕を少しだけ掴んでいた
安心させるためには仕方ない
心の奥底から這い上がってくる熱を必死に抑えながら、もう一度オレはお前の手を取った
その手の先はオレより温度が若干低く、温かさを求めているようだった



「……もう、帰ってくる。心配いらない」



『そっか……そっ、か……』 



そうやって優しげな嘘を並べても、お前は何もかも受け入れるようにゆったり微笑んだ
なんて可愛らしいのか
耐えられなくなったオレはお前の首筋に手を伸ばす
指先でお前を確認するように柔らかな首をなぞりながら、たった一筋、線を描いた






お前の「愛」が



『……あ、……』



オレに向けて精一杯
飛び散る






安心したのか溜め込んだ涙を溢れさせながらお前はようやく目を閉じた
余程苦しかったのだろう、そのまま倒れ込んできたお前の体を温めるように腕の中で抱き締めると、オレの心の幸福感が満たされていくようだった  



「……なぁ?」


『…………』


「離さないから、安心して」



思わず口から出た愛の言葉にケチをつける訳でもなく
オレはただお前の顔を見つめながら、お前の前髪を掻き分けて軽くキスをした




カツ、カツ……




そんな時間に終わりを告げようと、部屋の外から足音が聞こえた
その足音は見事にこの部屋の前で止まり、鍵穴を探る音が聞こえて、案の定扉はすぐに開く




「ただいま…………、…!?」




入ってきたお前の兄貴は驚いたような顔をして、此方に近寄ってくる
渡すものかと必死でお前を抱き締めたけど、オレを凄い形相で睨み付けた兄貴に肩を突き飛ばされ
オレはお前を手放す形になった
兄貴の方は必死にお前を抱いて、肩を揺らしている




「お、おい……っ!おいっ……!」




手から滑り落ちる
お前と




「……あ、……赤木……ぃいいいいいっ!!!」



床に滑り落ちて音を立てた
お前の愛で染まった
オレの「ココロ」





「貴様っ、貴様ぁああああああッ!!」





胸ぐらを捕まれて今にも殴ってきそうなその瞳も悪くなかった
けれど、オレが欲しかったのはこの瞳じゃない





だから、もう一回だけ






「ねぇ、開司さん」








もう一回だけ、オレにも見せて







「とっても」









綺麗でしょ







ボクとキミの瞳が重なりあう時


泣き崩れる兄貴を他所に
オレはもう一度、お前の顔を覗き込んだ

その瞳は俺を見つめる事なく
静かに伏したままだった


もう、お前の瞳を見ることはなくても



ずっとずっとスキ




この鮮血に染まった愛を
ずっとずっと忘れない






2014/06/12


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