...

「入らねぇ!」


俺は目の前で身を乗り出してお願いするお前を
突き飛ばすようにしてそっぽを向いた
一緒に風呂に入りたいと願っているお前の目を見てると負けそうになるからだ


入らない

絶対に入ってたまるもんか


どうして、と何度も肩を揺らすお前の手を
何度も払い除けながら、さっさと入ってこいと目を瞑って急かす俺
いつもならすぐ諦めるお前も今日ばかりは理由を知りたいらしい
俺のTシャツの裾を掴みながら、兎のような目でこっちを見ていた


負けては駄目だと再度目を瞑り自分を落ち着かせる為に
机の上にあった煙草を取って1本くわえると、少々焦り気味に煙草の先にライターを近づけた


カチっ


カチっ


カチっ



「ああ、くそっ!」


こんな肝心なときにつかないライターのオイルはすっからかんだった
苛ついたように床にライターを投げつけると横にいたお前の肩がびくっと揺れる

あ、しまった、と俺は目を伏した

これではまるで八つ当たり
怒っているわけじゃねぇのに、どうも上手くいかない



「ごめん……」



ぼそりと謝罪を口にして、ライターを拾うと俺はお前に背を向けた


そんな俺の後ろ姿を見て、何か感づいたのかもしれない
女って奴は敏感だから、すぐに気づく
すりすり、と床を擦る音が聞こえるとそっと後ろから抱き締められた


『もしかして』


「……!」



そう言いながら




『気に、してるの……?』



俺の左肩をそっと撫でるお前




思わず肩が動いちまって、動揺を隠しきれない
何も言い返すことが出来ないまま、沈黙が続く
ただ、俺の背中に暖かみが広がっていくのが止まらないだけで



でも



『大丈夫だよ』




その言葉に
俺は今度こそ泣きそうになった


再びぎゅっと抱き締められると
心から湧きあがってきたものを抑えることができずに
俺はひと粒、涙を垂らす


こんなの、みっともねぇじゃん
だからバレないようにバレないように


そうやって体に力を入れれば、お前にはこの想いがすぐに伝わってしまう
お前はさっきまで落ち込んでいたのが嘘のように優しく笑い出すと
俺の背中に頬を擦りよせてこう言った






『開司さんの、大事なもの含めて』






ああ







『全部全部大好きだからね』








なんで、こんなあったけぇんだろ









無意識に体が動いていた
俺はくわえ煙草をどうでも良いように床に落としてしまうと後ろに振り向きかえる
決して驚くこともしないで、受け入れてくれるお前に

耐えられなくなった涙をぽろぽろと落として
俺はその小さな体を抱き締め返した




キミが撫でる刻印

ふと思い出す
この刻印を背負った日

見られると、自分の弱さを
刻印を通して見透かされるような気がして

大好きな奴が離れて行きそうな気がして

ずっとずっと隠してきたけど


今日からは迷わず向かい合えそうだ
全てを知っても尚、笑顔で俺を呼んでくれる

お前の隣で




Fin.



2014/06/07


[拍手お返事はコチラ]


prev|TOP|next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -