001

もしもなんて無い世界で。
もう一度あなたに会えたなら、と。
いつも思っていました。





mouth to mouse
another side

case : nagi





矛盾する世界はいつも灰色で どす黒く、汚かった。
寝て起きて、呼吸を繰り返す。
生きているだけで自分こそが異物だと嫌悪した。
幼いころから「死ぬこと」を意識したことも一度や二度ではなかった。
祖父母に申し訳ないから決して口にはしなかったけれど。
存在こそが大罪ならば、それに相当する罰を受けなければいけない気がした。

罰を受ければ、この罪も赦されるんじゃないかって。
向こうにいるあなたが救われるんじゃないかって。
ただ、そう思っていたんだ。




*
*
*



橙の西日が頬を照りつける。
だらしなく投げ出した身体がいつも以上にだるい。
沈む橙は鈍く廃ビルの隙間から覗く。
コンクリートがジリジリ焼けて、こっちまで焦がされているようだ。

一昨日から碌に寝ていないのもあって大分消耗していた。
重い瞼を開ける気力すら無い。

(このまま、虫みたいに死ねたら楽なんだろうな。)

グシャリと潰れた感触。
一瞬だけ考えて、ゾクッとした。

(……変態か、おれは)

何でもいい。
そもそもが異形なのだから、装い足掻いたところで何が変わる?

今ではもう慣れたが、物心ついたころから奇異な目で見られることが不快だった。

先ほどまで相手をしていた他校の上級生もジロジロとねめまわしてきたが。
髪や目の色が生まれつき薄い自分は、この国では物珍しく映るらしい。

確か保育園に通っていた頃、少年グループの一人から心無い言われ方をされたときだったと思う。
カッとしてつい手が出てしまった。
大泣きしている少年を構わず殴りつけて、何度も何度も謝る声が耳をかすめていくのに止められなかった。
気がつけば大騒ぎになっていて、周りからは化け物でも見るような目で見られていた。

「ざまぁみろ」勝ち誇ったように呟いた相手の赤く腫れぼった顔に唾を吐きかけてやろうと思ったけれど、取り押さえられて無駄に終わった。

「あの子は何をするかわからない」
「あの子と遊んじゃダメ」
「あんな子、きっと母親だって碌なもんじゃない」

…ふざけるな。
何も知らないくせに。
「何も」知らないくせに。

ぎゅっと固く目をつぶる。
真っ暗な闇の海には幾つもの星が散らばっていた。

胸がざわめいて、血が見たくなる。
落ち着かせるために、何度も人を殴る。
血を見ると少しだけ安心する。
罰を与えている間は、「救われる」気がする。

これは暴力ではない。
悪い人間を正す行いなのだ。


*
*
*


「……?」

視界がふっと暗くなった。
起き上がろうとしたけれど痺れた腕が言うことを聞かない。
辿る視線の先に、見知った男の顔があった。

クロタキ。
下の名前までは知らないが。
うちのOBで、不良の巣窟・三苗高の一年らしいが、そこでも上級生にすら恐れられている男だ。
砂利を踏み潰す音が止まった。
クロタキは無言で此方を見下ろしている。

「く……」

首だけ動かす。
鈍い痛みに小さく呻き声が漏れた。

「ぅ…ッぐ……」

それでも吐き気だけは無理に抑えて堪える。


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mokuji
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