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「で、何か用ですか。黒猫なら入りませんよ」
「用ってことはないけど。ダメだよ。そんなに警戒心むき出しにされると………るじゃん」
「え?何ですか」
「んー?別に」

無造作に髪をかきあげる仕草とか、ほどけた靴ひもとか。
あくびをしている無防備な姿とか。

「普通なんですね…普段は」
「何が?」

やり過ごそうとしていたはずなのに、自分から会話を続けたのは自分でも意外だった。
不良は嬉しそうに私を見下ろしている。

黙っていれば普通の高校生、いや普通というより格好良い…のは認める。
ただ、こうしていると不良と認識されるあらぬ限りの「悪事」を働いている輩のツートップだなんて、想像もつかない。

「あなたはどうして黒瀧に荷担するの」

声を落として、一番疑問に思っていることを尋ねた。
どうして、わざわざ「不良」をしているの。

「君はネズミというより、野良猫だね…どこででもめげないし」

ほら、まただ。前から私を知っているみたいなこの発言。
やっぱり、私、どこかであなたに会ったことがある気がする。
そうしてまた、ありえない考えが浮かぶ。

「バカにされてる気がするんですけど」

確信などないのに。
朧気なあの夢がやけにあったかい気持ちになるから気になるだけなのに。
幼稚園から今まで学校も違う城多と会った記憶なんてないのに。
本当にありえないのに。

俯いて歩く。
バカみたいだ。
不良である彼をいつも否定していても、そんな風に思うなんて。
まるで「そうだったらいいのに」なんて感情まで出てくる始末。

「しゅうちゃんはね、放っておけないんだよ。バカだから」

俺が見てないと。
不良のくせに優しい言葉を呟く城多の顔を見上げた。
細めた目で、笑いかけてくる。

「そばに居たって、どうしようもないことも、あるよ」

こんなこと言うつもりなどなかったのに。
今まで見た中でも柔らかな表情の城多に、さっきまで棘のある声しか出せなかった私の言葉を優しいものにさせた。

「それは経験から?」
「さぁ…」

怯えではない。
けれど少し胸にぽっかり穴が空いているような。
それが寂しいと感じさせているような。
そんな、気分にもさせた。

「とにかく、私の身の回りでもめ事を起こすのはやめてくださいね。これは白猫であるマナにもマキさんにも言ってあることですから」
 

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mokuji
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