002
「なに、みてるの」
何も言わない相手に少し苛立つ。
早く居なくなってくれればいいのに。
苛々と土埃に汚れた髪を揺すった。
「さっきの、栗鼠校の藤後だろ」
クロタキは此方の質問には答えなかった。
代わりに、名前らしき言葉を口にする。
「フジシロ?」
誰そいつ。
無理に身体を起こしながら、聞き知らない名前を鸚鵡返しに聞き返す。
「俺もよく知らねーけど。坊ちゃん校にヤバい奴が居るって噂。ヤクザと繋がってんじゃねえかってまで言われてるらしい。多分そいつのことだと思うけど」
「……」
噂がどこまで噂なのか知らないが、物騒な話だ。
それでも、悔しいけれど、先ほどの相手(フジシロというらしいが)には、今までの奴らとの格の違いを感じたのは確かだった。
向こうが引いたから終わったようなものだ。
子供と大人程の体格差があったわけでもないのに、正直危なかった。
「立てるか?」
宥めるような言い方にムッとして睨みつけてやる。
相手は肩を竦めて やれやれといったふうに鼻を慣らした。
「………気持ち悪いやつだった」
「あ?」
ワイシャツについた土埃を払いながら、小さく呟く。
ふと首もとに違和感を感じて手をやると、ヘッドホンがなかった。
目だけ動かして探す。
前方の階段下に、漸くそれらしきものを見つけた。
「気持ち悪いって、なにが」
此方が動く前にクロタキが ヘッドホンを拾い上げながら聞き返してくる。
勝手に触るなと思ったけど、我慢した。
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mokuji
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