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「◎※‰♯∽∽∽∽!!」

黒瀧に胸ぐらを掴まれたまま、どうにか手を動かした着ぐるみがポケットをまさぐる。
取り出したのは無線機のようなもので、何やらボタンを押し始めた。
他の係員に応援を頼んだのだろう。
騒ぎが大きくなる前にあの二人をどうにかしなければ今後「 三苗高 出禁 」なんて札が掲げられるかもしれない…

「マナちゃん、俺後ろから行くわ。正面突破よろしく」
「ま、そーなるよね。あたし黛担当?」
「どっちか目があったほうでいい」
「りょうかーい。雪姫ちゃんは下がっててよね」
「あ…うん」

軽い準備運動のように肩を回しながらニッコリ笑う真南に大人しく頷く。実に楽しそうだ。今日一番の顔で生き生きしている。
真生の方は、遠巻きに騒ぎを傍観するファミリーたちの後ろに待機していた。いつのまにあんな所まで移動したんだろうか。
真生や真南だけでなくうちの高校の不良たちは皆、こういうところで不覚にも感心させられる…が、しかし。

「止めるとは言ったものの…喧嘩、始めるわけじゃないよね?まさかね」

騒ぎを起こす側になりはしないかと一抹の不安が残るのは、やはり萩谷兄妹が信用ないからだと感ぜずにはいられない。

「…」

暫く指をグーパー繰り返していたが、突如友人の手が止まる。
小さく息をつくと、彼女は徐にすぐ傍にあったゴミ箱へ手をついた。
何をするのかと見守っていたそのとき。
信じがたい光景を目にしたのだった…

「白・黒・つけよーぜッ!」

あろうことか友人の少女は、かけ声と共に その小柄に似つかわしくない腕力でもってゴミ箱(鉄製)を黒猫二人組たちの方へ、文字通り「ぶん投げた」のである。

「ウワァッ!」
「ギャッ」
「……」

意外にも初めに気づいたのは着ぐるみの園内スタッフであった。
ゴミ箱は不幸にも黒瀧の背中に直撃。
いや、むしろ黒瀧のほうがゴミ箱に向かっていったように見えたのだが気のせいだろうか。

「何何、さっきから」
「喧嘩?」
「なんかのイベント?」
「プルー●がいじめられてんだけど」

野次馬が増えていく。
鈍い音を立てて転がったゴミ箱からは、ポップコーンやらチュロスやら中身が散乱し 非常にまずいことになっている。
隙をつかれた黒瀧から抜け出した着ぐるみは そそくさとばつが悪そうに退散していった。

「ってぇな!誰だよ…ってお前、藤後んとこの」
「にゃあ」

着ぐるみを追おうとして、目の前に立ちふさがった少女が誰か黒瀧はすぐに気づいたようだ。
猫の鳴き声擬きのふざけた挨拶もそこそこに真南が黒瀧に飛びかかる。

「っいててて!やめろそこ昨日から捻ってんだよ」

「目が合った」から標的に選んだのだろう、前方に立ちふさがれば当然ではあると思うが。

「それくらい避けなよ修一」
「うるせ、つうかゴミ箱はお前が俺を盾にしたんだろーがッ!」
「…それも避けなよ修一」
「もう凪君ほんとやめて、マジで立場わかってる?俺血管切れそう」

真南が黒瀧の右腕にぶら下がって動きを止めているのを見て(笑うところ)、それを黛が冷静に指摘する。
勿論黒瀧はブチキレ寸前である。
助け船をだそうとしたのか、曲がりなりにも舎弟である彼は黒瀧のほうへ体を向けたが、何者かにパーカーのフードを引っ張られ 意識はそちらへそらされた。

「ナギっちはこっちー。俺が遊んであげるよ」

真生である。
母猫が子猫の首根っこでも掴む要領で簡単に少年を押さえ込んだ。
じたばたする黛からゲーム機をかすめ取り、人質ならぬ3DS質をとる徹底ぶりだ。

「おい、ナギ何やってんだよ!DS取られたくらいでやる気なくすなッ」

黒瀧が何か叫んではいるが、少年はすぐに大人しくなった。

「すごい…」

友人が黒瀧の腕をまだ噛みついているので相手が少し気の毒だが、騒ぎは最小限(?)に押さえられたように見えた。

「他のお客さんにも着ぐるみさんにも迷惑っすよー、黒瀧先輩?」

黛を小脇に抱えた真生が黒瀧に向き直る。

「萩谷か。最近よく会うな」
「俺はあんま会ってるつもりないっすけどね」

黒瀧には敬語なのか。
真生が下手に出ているのは初めて見る光景だ。
 

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mokuji
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