003



「あ」
「マキ兄どうしたの?…あ」
「二人とも何立ち止まって…あ」

レストランを出てすぐ同じ方向から顔を背け、何も見なかったことにし別のルートへ変更する算段を付け始める萩谷兄妹を不信に思うがその理由はすぐに「理解」することになる。
これほどにまで知り合いを見つけたことを後悔したのは初めてだ。
知り合いというにはお互いのことを知らなすぎるし先輩と呼びたくはないし、なんと言うべきか。
同じ高校に通うバカ集団のリーダー、いや猿山大将…じゃない、猫のおやぶん…この形容はかわいすぎるか。

要するに、前方30mに、黒瀧修一が着ぐるみに向かって「ガン付け」ていたのである…
その隣にはヘッドフォンをして3DSを弄っている少年が冷めた顔でしゃがみこんでいた。
見た顔だ。
確か、二・三日前にバイト先のカフェに来た舎弟の一人だ。名前はよく覚えていないが。

「ふざけた格好してねえでツラ見せろや」
「あwせdrftgyふじこlp」
「あん?子供の夢なんかぶっ壊してやるのが大人の務めってもんだろ」
「着ぐるみの言葉わかるの?すごいね修一」

パントマイムのように体の表現のみ許され声を出してはいけないはずの着ぐるみの中身。
気になるのは仕方がないことだ。
しかしあちらも仕事。
やっていいことと悪いことが…

「あってめ、逃げんな!」
「〜〜〜〜〜っ」

止めるべき?
止めに入りたいのですが、いいですか。
考えるより先に走り出そうとしていた私の腕をつかみ、首を振る二人。

「姫ちゃん、相手が悪すぎる」
「隣にナギっちがいるんだ、マジで遊園地まで来て血は見たくないかな」
「ナギっち?」

おそらく、黒瀧の隣いるヘッドホン少年のことだろう。
ナギっちなんて可愛らしい愛称だが…

「可愛い顔してとんでもない奴だよ、だまされちゃだめだよ雪姫ちゃん」
「リミッター解除しちゃったときは俺もやばかったなー…鎖骨の傷がエロかった」
「兄貴、問題発言。ハウス!」
「キャン」
「あの…こっち完全に置いてかれてるにも関わらず兄妹漫才はじめないでよバカ谷兄妹」
「ば、ばかって言われたorzでもちょっとイイ」
「あ、なにこの新境地に来ちゃったかんじのトキメキ(・∀・)」
「真南さん真生さん本当に気持ち悪いです」

あまりの発言に嫌悪感を露わにしてしまった。
危ない危ない。
余計に喜ばせる結果になっているじゃないか私としたことが。

「なぎ!捕まえろヘッド命令だ」
「イヤだよめんどくさい」

黒瀧の声に、彼らの方へ視線を移せば丁度着ぐるみが逃げ出すところだった。
面倒だと断るナギっち君に、黒瀧が憤慨している。

「あのね、なぎさまEXはアカムに乗ってる最中デス」
「EXって何だ?」
「経験値が鬼熱いってことかな」
「鬼熱いとどうなんだよ?」
「チートの上ってことじゃないかな。ソロ5分針でダラちゃん倒すくらいの」
「…お前、すげーな」
「今更気づいたんだ、これだから修一は未だに単身狩りに行けないくらいの初心者乙的な存在なんだよ」
「なんかよくわかんねえけど馬鹿にされてるってことだけはよくわかった、そこに直れお前なんか3押しにしてやる、このまゆゆが!」
「押しメンを変更するのですかー、まぁ1位になっちゃったら自分だけ感なくなるよね、わかりますそのキモチー」
「うぜえ!いいからお前も追いかけろって」
「へいへい〜」

彼らのふざけた会話も含め、大分脱線したが…
とにかく、キャラクターの着ぐるみが走って逃げようとするのを追いかける黒瀧とナギっち君(名前知らないし)。
それを後ろから小走りで追いかける私たち…という構図が出来上がった。

こんなに騒いでいれば他の園内スタッフが気づくのも時間の問題だと思うのだが。
未だ止めに入る様子はない。

とうとう着ぐるみが捕まってしまった。

「ナギちゃん、カメラカメラ」
「がってん承知の助。いつでもいいよ」

黒瀧が背中のファスナーをあけて中身を暴く様を写真に収めようとカメラを構えるナギっち君。
意外にノリノリじゃないか。
着ぐるみはじたばた暴れて必死に逃れようとしている。

「ねえ、これ犯罪じゃないの?」
「いやー…学校の外だしねえ」

さすがの真生さんも、止めに入ろうかと考え始めているようだが。

「そういう以前の問題でしょ。営業妨害、器物損壊罪」
「あー…なんて言うか雪姫ちゃんはスイカ割りとかも参加しなさそうなキャラだよね」

遊び心0な私の反応に、真南が残念そうに言った。
まぁ、確かに少し恥ずかしいかもしれない。砂浜でスイカ割りなんてしたことないし。
でもそれとこれとは次元が違うと思うのですが。
 

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mokuji
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