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「絶叫系、意外と平気なんだね。正直お兄さんついていけないよ」

午前中の短めのパレードが始まる前に、とマナが先導しセレクト形式のレストランで早めのランチをとる。
まだ11時半を回ったところだったが店内は混んでいた。

「どういう意味ですか」

席につき、すぐに食べ始める兄からの言葉に、何となく威嚇気味に聞き返す。
妹は料理の写真を携帯で撮り続けている。
ブログか…また鍵付きのブログに載せるのか、私の写真付きで。
許可取ってないんですけどね?

「姫ちゃんほど模範的な優等生は普通、勉強ばかりで外慣れしてないからジェットコースターとかお化け屋敷とか苦手なんだと思ってたんだけど」

アイスティーの氷が涼しげな音を立てる。
ゴールデンウィーク中だから覚悟はしていたが、子連れが多すぎて 店内は騒がしかった。
走り回る子供が数人、注意しない親の顔を無遠慮ににらみつける友人を目で窘める。
それはあくまでも店員の仕事なんだから、という意味で。
…その店員が注意しないから目に見えてむくれているのだけれど。

「まぁ…でも、君くらい肝が据わってる子なら当然といえば当然か」
「黒猫のジョーカー・城多に喧嘩売るくらいの子だからねぇ」

萩谷兄妹はお揃いのパーカーを肘まで腕まくりし、またフォークを持ち直した。
どうやら二人ともサラダに入っているコーンが食べにくいらしい。
スプーンを使えばいいのに。
口に出そうとしたが、妹のほうが気づいたようなので言うのはやめておいた。

「ジョーカー?」

その男を形容する言葉として聞くのは初めての単語に、何となく聞き返す。
もちろん興味本位で。

「胡散臭いでしょ、あいつ」
「マナ、俺もスプーン取って」
「残念。もうアイス用のしかないよ」
「なんで2コ使ってんだよ、いっこ貸せしソレ」

友人の兄・真生が言うことには。
優等生(ここでは私・灰葉雪姫のことを指すわけだが別に自分は中の下だ。むしろこの場合真生のほうがそれに一番当てはまると思うが)である人間は、日ごろ勉学に励んでいるため学力には秀でていても恋愛や運動その他は不得意、苦手というキャラクター設定が良しとされそれにより萌えが発生することもあるとかないとか。
萌えだのイベントだのというものがいまいちわからないので、そのあたりから説明をあおごうかと目を瞬かせていれば「納得」といったように隣で頷く妹。

「まあ、ようするに悪口のようなものですね。わかります」

別に理解するつもりも更々ないのだが。

「っちょ、人聞きのわるいこと言わないでよ姫ちゃん」
「そうだよ天然ツンデレ姫ちゃんのことだから、普段は強がってるけどじつは乗り物弱くて足がくがくになっちゃって「こ…こんな怖そうなの乗るの?」とか涙目で懇願するっていうキャラ設定がちょっと萌えるっていううちのお兄ちゃんの隠された性癖がここで暴露されたっていうだけのことだよ!」

ついていけない、のは私のほうだ。
君たち兄妹に ついていけるわけがない。

あきれる私に、髪をくしゃくしゃにしながら盛大にため息をつく兄。
妹はふんぞり返っている。
どれほど達成感に満ち足りていることか。
ここまで兄を貶める妹、なかなかいないと思う。

静かに「聞かなかったことにした私」は黙々と白身魚のムニエルを頬張った。
かなり美味しい。
今度両親も連れて来よう。

「…妹ちゃんよ」
「ん?」

四つ折りにしたナプキンで口元をぬぐうと、フォークとナイフをへの字に皿へ戻す。
兄妹はすでに食事を終えていた。

「全然フォローになってないんだけど」
「えっなんか間違った?」

「間違いだらけだよ!俺今すごい生まれて初めて全身で不審者扱いされてるよ」
「まあええじゃないかええじゃないか〜1867年」

「マナえらい、ちゃんと勉強してるんだね」
「え、そこ拾うの姫様」

「えへへ、とある不良教師が世直しするグレイトなドラマでやってたから覚えた」
「経緯はどうあれ、一つずつ賢くなっていくあなたを見ていて元気が出るわマナ」

認識を誤ってはいけない。
これを教訓にすることでしょう…妹バカのようだから「そんなとこも可愛い」で片付いてしまうのだろうが。

そうして正味20分と経たずランチは終了。
会計は済ませてあるので、そのまま席を立って出入り口に向かう。

「マキ兄、雪姫ちゃんも早くーパレード始まっちゃうよ!」

スキップでもしそうなほど上機嫌で先を行く真南。
その小さな体には大きめのリュックサックのファスナーは全開だ。子供か。

「ちょい待ち、チャック全開だよお嬢ちゃん」
「えー」

首根っこ掴まれる勢いで引き戻され妹は不満げに暴れるが、気にせずファスナーを直してやっている兄。
実に微笑ましいと思いつつ、先ほど言われたことを気にして肩を落としている友人の兄に私は軽く同情を覚えるのだった。

彼にとっては妹にからかわれることなど今更だろうが、その友人にまでもからかわれていれば世話はない。

とはいえ、此方からすれば真生も突っ込み所が満載なのだから、多少は仕方がないような気もするが。
 

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mokuji
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