019

すらりとした白い足が覗く。
冷房の効いた店内は寒くないだろうか。
会話の合間を縫って、私は空調の温度を高めに設定しに行った。

「珍しいじゃない、こういう店に来るの」
「まあね、雪姫ちゃんがバイトしてなかったら絶対知らなかったと思うけど」
「ふふ、そう…そういう友達が出来たの」

「良かったじゃない」無邪気に笑う真南の髪を梳きながら、柔らかく微笑む。
彼女の名前は前沢鞘子(まえさわさやこ)。
三苗高校3年生。しかもS組。
真南の師匠、っていうのが何のお師匠様なのは聞いていない。
お料理とかだったらいいんだけど。
…まぁソレはともかくとして。

「藤後さん…どうしたんすか」
「具合でも悪いんですか?」
「あ…やっべ前沢先輩、テンション上がるんですけどマジどうしよう俺どーする俺」
(あぁ、いや別になんでもないんだお前たち、気にしないでくれ)」
「藤後、本音と建前が逆になってるから」

奥の席に座る藤後以下白猫メンバーの様子がおかしいのは気のせいだろうか。
それに。

「修一、肉焼いといて。俺トイレ行ってくる」
「な、naギ君、ボクを一人にする気デスか」

ゲーム起動中のPSPをそのままに、席を立とうとする舎弟を引き止める黒瀧。

「文字化けしてるヘッド…ウケる。動画撮ってもいい?」
「や…やめてくんない?マジで、ホント勘弁してくんない?」
「あははー面白ー」

面白いなんて言って笑っていることから察するに、恐らく城多もナギだとか言う少年もその理由を知っているのだろうが、わざわざ聞く気にはなれない。

何も知らない私がわかることといえば、彼女が店に入ってきてからだ。
双方から感じた、どす黒くピリピリしていた空気が、やけに…

「いきなりミルクティー噴き出すなんて、藤後先輩らしくねっすよ」
「真生さんも何か言ってやってくださいよ」
「あー…ハンカチ、貸してはやるけどちゃんと洗って返せよ?」
「ああ…うん…」
「藤後、聞いてんのー?お花畑から帰って来ーい」

白(というか藤後)からは桃色…いやサーモンピンク、何でもいいけど兎に角そんな感じの如何わしい色(笑うところ)が漂ってきていて、何やら藤後の様子がおかしいことに舎弟が焦っているのが見える。
藤後の頬は高揚し、此方を眺めてはやめ眺めてはやめを繰り返している。
真生さんの声すら届いていないようだ。

完全にあっちの住人になっているのは藤後だけではない。

「ナギくうん、もんはんはいいから俺のこともうちょっと心配してくれてもよくない?」
「じゃあ3rdから始めるとか言わなきゃいいのに」
「だって、あいるーと一緒に狩りしたかったんだもん…黒猫2匹と狩りしたかったんだもん…トライジーのほうにくっついてくるキャラが気に食わないんだもん」
「修一」
「なに」
「気色悪いよ」
「(ずーん…)」
「あははは面白ー」

黒(というか黒瀧)のほうからは土気色…戦時中の畑の色?まぁ何でもいいけどそんな感じの不健康そうな色(ここも笑うところ)が漂っていて。
どちらも「最初の威厳はどうした?」状態。
私でも、今なら黒白ヘッド二人の首をかくことだって出来そうなくらいだ。

いったい…なぜ…?


46/52

*prev next
mokuji
しおりを挟む
index
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -