015

「あれ、一応アンタんとこの仔猫でしょ」

ずず、
行儀悪くコーヒーを啜る彼女は不貞不貞しい態度で目をそらす。
他人のフリ、なんだろう。

「否定はしないが…」

男は指の腹で己のメガネを直す。
あまり血色が良いとは言えない肌の色は城多とは随分対照的だった。

「最近よく噛みつかれるんだ。ちっちゃいうちからちゃんと躾けしといてくれないと困るなー」
「うちは放任主義だ」
「あっそ」

にっこり笑うその目にゾクリとした。
城多の目は笑っていない。
初めて会ったとき以上の、冷たい目。
それは冷え切った氷のような。

「ロイヤルミルクティー4つ。ホットで」
「はーい」

憮然とした男の一人が此方に告げた言葉が注文だと理解するまでに少しかかった。
私の代わりに城多が頷く。
真生はといえば何も言わずに奥へと男を先導していく。

「レジ。しなくていーの」
「え……?っあ、そうだよね」

はっとしてレジを打つ私の後ろでティーパックの箱を破く音が聞こえた。

「アイツが藤後心。白猫のトップだよ」

カップを片手に、耳元に唇を寄せきた城多が囁く。
かかった息にビクッと肩が揺れた。

「あいつら…君を見に来たのかな」
「な…」

なんで。

「あの子と仲良くするのはいいんだけどさ…」

なんで。
心配そうに此方を窺う真南の目から逃れるように視線を逸らす。

「まー半分は俺のせいなんだけどね」

城多が悪戯っぽく舌を出した。

(キモ!ていうか、本当に意味がわからん)

ゾッと背筋が凍ったが、それよりも後の言葉が気になって押し黙る。

「どーゆう意味」
「そのうちわかるよ」

今 説明しろ。
喉まで出掛かった言葉を飲み込む。

ちりん。
また小さく来客の合図が鳴った。

「っ…!」

入ってきた男を見るなり、大きな音を立てて真南が席を立つ。

「黒瀧…!」

友人が小さく呟いたその名前には聞き覚えがあった。

「オハヨーしゅうちゃん」

城多が小さく手招く。
獰猛な野犬のような目をした男――恐らくコイツが黒猫のヘッドなのだろうが――随分と砕けた呼び名がアンバランスだ。
後ろから黒瀧より頭一つ背の低い男が連れ立って入ってくる。

「黒瀧…」
「何故奴らが」
「害虫が…」

黒猫二人に対し、白猫ら三人は毛虫でも見るような目を向ける。
狭い店内に、白猫と黒猫の頭×2。

私はまた、目を瞬かせる以外になかった。



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mokuji
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