013

「あ、そうそう、昨日から新しく男の子が入ったんだよ。もうすぐ来る頃だけど…」

店長の言葉に「え、」と一瞬戸惑った。
店内、店頭合わせて6カ所にバイト急募(男性も!)と書かれたポスターが貼ってあるのは知っている。
私がこのカフェで働き始めてから何人か電話は受けたが、面接にまで来た者はいなかった。
最近誰かを面接をしたという話すら聞いていなかったのだから、いきなり入ってくれば普通驚く。

「今日一日ずっと灰葉ちゃんが指導係だからよろしくね」
「指導って…それも一日中っ?」

なんだそれ。
なんだそれ。
そんな、急に言われても困る。
しかも男の子ってなんだよ。

「あれ?ネズミちゃんじゃん」
「!」

不意にドアが開いて顔を上げる。
ひょこっと顔を覗かせたその顔に、文字通り飛び上がった。

「あ〜城多君!お早う昨日の今日で急に朝早くからの無茶ぶりでゴメンネ!」
「…っ……!」

何か言おうと口を開くが、声にはならない。

し…
し……
白滝湯!

「あ。藤後んとこの子猫ちゃんもいるんだ。おはよ」

真南の存在に気づいた城多が、流石に驚きを隠せない様子の友人に向かってへらりと笑う。
目が点になるとはこのことだ。
何故この男がこんなところに居るのか。
説明を求める私の表情に店長が「イケメンだろ?」歯を見せて笑う。
まあ、イケメンかそうでないかと聞かれれば前者だが…

(って、あたしはアホか。
んなことは問題じゃねんだよ。)

余計なことを仕出かした上で、さも得意げに誇らしい顔をしてふんぞり返る彼を見るのは今に始まったことではない。
しかしこれほどまで鈍器でぶん殴りたい衝動に駆られたのは初めてだ。

三苗高二大勢力・黒猫幹部 城多騎由。
鎌を持った死神に見えたのは言うまでもない。


「城多騎由…」

その愛らしい声姿からでは想像もつかない程の低音で真南が唸る。

「ま…マナ…」

(どっから声出したソレ…)

「警戒が甘かったみたいだね」

面食らう鼠に毛を逆立てた子猫が続ける。

「何のつもり?バイトしなきゃなんないほどお金に困ってるよーには思えないんだけど」

カウンターに寄りかかった体勢から身体を起こし、真南が一歩進み出る。
その物凄い殺気に縮み上がったのは私だけだった。

「そんなあからさまに殺気剥き出しにしないでよ」
「だからバイトの新人君だってば。ダメだよマナちゃん、手当たり次第に喧嘩ふっかけちゃ。ていうか、同じ高校だからまさかとは思ったけど知り合い?二人のお友達?」

城多は手動式の扉をゆっくり閉める。
店長に関しては平気なのか気づかないほど鈍感なのかもしれない。
おまけに呑気に私たちのお友達だとか聞いてきた。
いずれにしてもただ者ではないことは確かだが。

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mokuji
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