012

** Side:yuki



「ねえ、私3・4は暇じゃないって言ったよね?」
「うん。聞いた」
「バイトの邪魔しに来たの?」
「邪魔じゃなくて、SPしに来たんだってば」

友人・真南がバイト先に顔を出すのはこれが初めてではなかった。
人の往来の激しいビル街は、黄金週間の初日とはいえ今日は水曜日。
朝のピークを過ぎた今の時間帯は頬杖をつけるくらいには暇な時間が流れている。

「姫ちゃん、暇」
「私は暇じゃないんだなこれが。早く帰りなさい」
「そっちも暇そーにしてるじゃん」

手前のカウンターに寄りかかる制服姿のまま。
友人はニコニコと笑って此方を観察してくる。

コーヒーはロスになるし、ポーションの減りが遅いからわざわざ多めに倉庫から引っ張り出してきた袋が邪魔になるしで置き場に困っている。
必要な物の置き場にすら困る狭い店内だ。
そこに予備を置く余裕などはない。

「あ、そう言えばさっき真生さん見たよ」
「え?」

バイト先であるカフェ・IL(アイエル)は三苗駅の隣、一苗(ひみつ)駅から少し歩いた狭い路地にある。
それでも一つ手前はアパレル関係の大手会社やサロンの並び立つビル街。
朝からのシフトは初めてのことで、少し早めに家を出たのだが。
三苗駅前の交差点で三苗高校の生徒ではない制服を着た女の子を連れて歩く真生を見かけた。

「女の子連れて歩いてたけど。あれって彼女?」
「彼女じゃないよ」
「そっか」

Mサイズのカップが数個落下する。
手元が狂ったのは、友人の声がいつもとは違っていたからだろう。
冗談交じりに笑ってはいるが、伏せた目が気になった。

携帯電話を握るその手にぎゅっと力がこもる。
ため息交じりの複雑な表情。

(今のは…ヤキモチ、かな?)

話題を変えようと別の話題を考える。
学校のこと、5日からの予定のこと、好きな歌手の話…
何でもいい。せっかく来てくれたのだから。

「ねえ、雪姫ちゃん」
「あっれ、お客さん全然だね」
「あ、お疲れ様です」
「ただいまー灰葉ちゃん」

何か言いかけた真南の声と、不意に店に入ってきた店長の声が重なった。
店長への挨拶もそこそこに友人へと向き直るが大丈夫だと返されて返答に困る。

(マナ…?)

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mokuji
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