011

「ダウトっ」
「ブー。コミヤちゃん残念でしたー。はいカード全部プレゼント」
「いらねえぇえ」

窮地に追い込まれたらしい一人が大袈裟に嘆いた。
手にするカードを涙目で眺めている。
声を荒げて半ば喧嘩になっている男子生徒の傍ら、真面目に作業する友人ピンク色のマーカーで教科書に線を引く音がやけに大きく響く。

(っていうか…むしろいつもよりはかどってない?)

進むペースが尋常ではないし淀みない。
とても真似できないな。
私はといえば、活字ばかりに囲まれて白目を剥きかけているのが現状だが。
自習ということでいつもより近くに友人がいるだけマシだが、改めて思った。
勉強って本当に楽しくないなと。

「あサキタてめ、今何枚出したよ」
「明らか多く見えたんだけど。反則だし」「いーからさっさと次いけよ」

(そう言えばアイツら朝喧嘩してたな…)

要は喧嘩したくてウズウズしてる3バカが主人(古賀)に自分たちももっとブイブイ言わしたろーぜ的なことを言っていたようだったが…
あれだけ騒いでいたから、友人も気づいていたかとは思ったが、どうやら知らないようだ。
関わらないのに越したことはないが、何も聞いてこないところを見ると恐らくはそうなのだろう。
今朝、此方が教室に着いたとき彼女は教室前の廊下に居たけれど、D組は昇降口からかなり離れている。
気づかなくても不思議ではない。
そう言えば窓の外が気になっていたようだったが、何か気になることでもあったのだろうか。

「あっ、こーちゃんドコ行くの」

誰かが立ち上がった音にピクリと肩が動く。
目の前の友人も少し反応した。

「…おやつのとこ」

古賀が後ろのドアから教室を出て行くのが見える。
他の三人を振り返り、六文字で行き先を告げている。

「俺あがり〜。待って俺も行く」
「ちょ、サキタ勝ち逃げ」
「あ、何コレすげーダウトじゃんむっかつく無効だし、おい、聞けよサキタぁ」

今更ながら紹介するが、古賀に付き従う3バカトリオ、その名も小宮・守屋・崎田。
小宮が散らかしたトランプを拾い集める守屋が小さく舌打ちする。

「なぁ、サキタくん。ジョーカーが三枚あんのは何で?」

気づかなかったのもアホなんじゃないのか。
それだけ特徴のあるカードなら3度も出れば流石にバレるものではないだろうか。

「は、俺じゃないし。俺がやったの他の絵札だけだし」
「あ?じゃあ誰が…ってか、てめやっぱイカサマじゃねーか」

守屋と崎田がギャンギャン言い争う中、小宮がはっとしたように顔をあげる。

「…こーちゃん?」

まさかね。
三人に倣い私もドア付近にまだ立っていた古賀に視線を移す。

「おやつが待ってるんで、ぼくはこれで」

「ぼく」っつったよ今。
呆れる私の目には疑ってくださいと言わんばかりに目が泳いでいる古賀が映る。

「こーちゃん!」
「こうちゃん!」
「そんな子に育てた覚えないわよ」
「だーから、ほらぁサキタがやるから」
「こーちゃんがズル覚えちゃったじゃん」

「ぷふっ」小さく吹き出す音に、気づけば友人も彼らの会話を聞いていたらしい。
どこかツボったらしく肩が小刻みに揺れている。


「いや…ああいうの、俺こーちゃんから教えてもらったんだけど」
「…」
「……」

…。あー…なるほど。
驚愕の事実に、唖然とした後 顔を見合わせる二人。

幾度となく同じ手で引っかかっていたのだろう。

「待ちなさいこーちゃん!」
「100円返しやがれー!」

さっさと逃げ出した古賀を追って三人が教室を出て行く。
そして廊下には、彼らのしょうもない理由で生まれた怒声が響き渡っていくのだった……



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mokuji
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