009

「じゃあこのノート要らないんだ。見せてあげようと思ったけど」
「うそうそ!要ります要ります〜!」

直後に前言撤回などいつものことだ。
猫のように甘えてゴロゴロ喉を慣らす私の髪を撫でながら、「しょうがないなぁ…もう」友人の声が柔らかくなる。

「ねえねえそんなことよりさ、ゴールデンウイーク、どうするの?」

私に若干邪魔されている為書きにくそうにしながら終わらせたプリントを仕舞い、友人はグラマーの教科書とノートを取り出した。

「どうって」
「いつ暇?どこ行く?旅行?ランド行っちゃう?」
「わかってたけどそこに勉学の文字はないんだね」
「うげー。ゾワッときたよ今」

ねえ雪姫ちゃん。
もっと私を甘やかしてもいいんだよ。

頬杖をついて見守る私に「あんたもやるの」友人は手を動かすように促してくる。

「マナって本当調子いいよね」
「ニャア」

駅前の文房具屋で売っているノートに、彼女の綺麗な字が踊る。

「で、いつ暇?あそぼ。あそんで」

今使っているのは、最近私があげたペンだ。
芯を押し出す部分の先に飾られたクマのキャラクターが手を動かす度に揺れている。
気が散るから勉強には向かないと言っていたけれど。

「一応ね、3、4、5は空いてるけど…」
「二泊三日旅行」
「無理」
「じゃあランド3連続〜」
「何それ…」

おそらく、誘わなければ休み中ずっとテスト勉強か先の授業の予習でもするつもりだったであろう友人。
この貴重な休みを全て勉強に回すなんて勿体無いことは絶対にさせない。

「雪姫ちゃんに足りないのは適度な休息と遊び心だと思う」

軽く摘まれた頬を抓られようとも、言いたいことは言っておく。
だって、きっとあと一押し…

「旅行は無理だけど…勉強会の日を一日作るなら考えてもいいよ。ランド行こっか」

ほらね。
優しいから、絶対断らないってわかってた。

「やった!真生兄誘ってもいい?チュロス奢ってもらおー」
「いいけど…ほどほどにね」
「やったーもう大好き!」

半ば無理やりだけれど約束を取り付けることに成功。
バランスを崩すくらいに飛び付く。
窘める友人に、わざと体重をかけて寄りかかれば本格的に怒られそうになった。

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mokuji
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