008

一限目、古典。

「あれ、ゆっこドコ行った?」
「Sクラスじゃない?」
「あ、藤後さんとこか」
「よくやるよね〜覗き」
「いーよあたしらは写真部行こ」
「あーそだね。私城多さんのB5サイズほしい」
「あたしもあたしも!」

三苗高校一厳格な女性教諭が体調不良で欠勤したことで、珍しくも本日は救急自習扱いになった。
自習イコールいつも以上に自由行動が黙認される。
嬉々として出て行くクラスメートたちを唖然と見送る友人の顔が見物だが、声に出して笑うことはしない。

(また怒られるの嫌だからね。)

数分も立てば、殆どの机は無人と化した。
向かう先は部室、好きな先輩のクラス、写真部(※校内の人気生徒の隠し撮り写真が売買されている)etc.

「…ナニコレ」
「珍百景〜」
「ハァ…」

クラスの6分の一ほどの人数になった教室を見渡して友人が溜息をつく。
茶化した私に全く反応しない時点で相当カルチャーショックを受けている模様。
無理もないか。真面目ちゃんだもんね。

残っているのは学級委員の男子、古賀たちのグループ、それから私と友人を入れた7人だ。
廊下では言い争う声が聞こえる。
また喧嘩が始まったのだろう。
いくら馬鹿生徒ばかりとは言え授業中は静かにしているから、今日のような状況は初めてだろう。
うん、慣れるしかないよ、雪姫ちゃん。

「このプリント、小テストの結果が最悪だったD組を心配して先生が夜なべして作ってくれたらしいよマナちゃん」
「へー。いらないことすんなよって感じ。むしろ悪意を感じ…」
「……」

シャーペンを持つ友人の手が一瞬止まった。
無言のお叱りに私はお行儀よく押し黙る。

「だってー。こんなわけわかんない宇宙語理解しろってのが無理なんだもん」
「宇宙語って…一応日本語だからね?」
「あなムズカシ。いとやりたくなし」
「使い方合ってるんだか間違ってるんだか…」

って、平均点下げてる元凶が言うことじゃないけど。
テヘッと歯を見せて笑うと、真面目な友人はやれやれと苦笑混じりに笑い返してくれた。

「まぁいいけどね。とにかくコレちゃっちゃと片付けて次の授業の予習しよ。今日は私もマナも和訳当たると思うし」
「ゲェー。エーゴの予習まですんの?」

有り得ない。
どんだけだよ。
ゴウモンだよ!
激しい「不満」を顔中で表現して見せれば、可愛らしい笑顔が返ってきた。

冷気に混じったお言葉と共に。


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mokuji
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