005

怖じ気づく三人に小さく溜め息をついて、彼は漸く口を開く。

「理由が必要か」

誰。
一瞬、誰の声だと思った。

「だってこーちゃん、俺らめちゃくちゃ舐められてんだよ?」
「こーちゃんはっ、本当はすげぇ強いのに」

聞き覚えのない低い声。
それもその筈だ。
聞いたことがないのだから。

「は……下らねえ」
「な…っ!く…、くだらなくなんかねえよっ」

珍しく古賀が喋る現場に居合わせたのもあって、不本意にも長居していたことに気づく。
それでも履きかけの上履きの踵をトントンやりながら何となく見入ってしまった。
だって何か中学生日記みたいでウケる……いや、青春だね。うん。

「つーかあんまさ、俺に変な期待すんの、やめてくんない?」
「こうちゃん!」

遠巻きに集まる視線が煩わしいようだ。
後ろから呼ぶ声にも耳を貸さずに、古賀は踵を返して教室の方へと歩き出す。

「俺が潰したい奴は一人だ。それ以外の奴は興味ない」
「…」

ボソッと言い残した言葉に取り巻き三人が固まった。
その間、十数秒。
話し合いは済んだのか。
私も自分のクラスへ向かおうと古賀と同じ方向へ足を進める。

「こうちゃんっ」
「こうちゃん!」
「こーちゃん!!」

キーンと耳をつんざく叫声と共に物凄い勢いで私を追い越した彼らは、主の背中に飛びついた。
何が何だかわからない。
仲違いをしていたのではなかったのか。

「俺!一生ついてくしっ」
「俺も俺も!」
「むしろ抱かれたい!」
「ぎゃははオマエきもい」

まるで乱闘でも始まりそうなくらい殺伐とした空気だったのが嘘のようだ。
和気藹々(?)と古賀たちは去っていった…

「いやいやいや埃舞ってんだけど」

どのあたりの言葉に動かされて取り巻きの機嫌が直ったのか此方としては皆目見当がつかないが。

「はー…雪姫ちゃんが見たら容赦なくバカじゃない?って言いそう」

実際、バカなので返す言葉もない。



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mokuji
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