004

昇降口に足を踏み入れる。
相変わらずの喧騒の中、私は自分の下駄箱から上履きを取り出した。
今日も仲違いが起きているようだ。

(元気だねー。)

隣の下駄箱を覗くと、一応学校指定のローファーが置いてあった。
履いているのはこの真面目な友人くらいのものだけれど。

「あ、雪姫ちゃん来てる。早くいこ」

白猫関係なら多少の処置が必要だが、黒猫は管轄外だ。
そのまま通り過ぎようとしたが、騒ぎの中心に居る意外な人物に目を丸くした。

「あいつ…」

古賀臣。
口をきけないのではと思われるのも無理はないくらい無口な男だ。
誰に対しても頷くか首を振るか。クラスメートではあるが入学してから現在にいたるまで彼がマトモに喋っているところを見たことがない。
一応黒猫のメンバーだが、彼も所謂「訳あり」だ。
白猫派とは一切交流を持たず、数人で連んでいる。

(ま、今のところは害が無いって理由で特に興味もないんだけどね。)

黒白共に下っ端たちの小競り合いなど日常茶飯事。
それ自体は珍しいことではないが。
騒ぎを起こしているのは古賀以下三名のグループだった。
古賀が三人の取り巻きに詰め寄られている。

「こーちゃん、やっぱおかしーよ最近」
「つか何でケンカしねーの?俺もっと暴れてーし」
「今日集会あんのに行かないしさ。こんな大人しくしてんなら何でミミツ入ったかわかんねんだけど」

取り巻きその1(名前知らないし)の、古賀のブレザーを掴む手が震える。
古賀は無言で相手を見つめていた。

「なんとか言ってくれてもよくね?」

何も言わない古賀に痺れを切らし、振り上げかけた拳をもう一人が止める。
相手より頭一つ分背が低いというのに、絶対的力の差は瞭然。
古賀は無言でその手を払う。
中でも一番背の高い一人が大きく肩を揺らした。

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mokuji
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