003

「最近、城多に突っかかったらしーけど、特に何もないんだよな。
普通なら引っかかれてるはずなのにさ。
城多とそいつ何かあんのかな。実は知り合いとか」

「突っかかった?なにそれ、ってゆーか怜もその辺は知らないんだ?」
「だから聞いてんじゃん」
「残念ながらあたしも知りません。城多って中高こっちだけど雪姫ちゃんは地区違うし」

彼女と城多は初対面のはずだ。
機密事項データを見る限りでは。
いやそんなことより最近突っかかったって何。

最近って、いつの話だ?
私聞いてないよ隠し事?っていうかそんなことよりこれってつまり…

「雪姫ちゃん…もう目付けられてるってことだよね」

そんな大事な事を自分が気づけないのはおかしい。
寂しいような悔しいような、変な気分だ。

「…」

怜は何も言わなかった。
返事の代わりに、前カゴに入っていた私の鞄を突っ返してくる。
ようやく気づいたが、もう学校に着いていたらしい。
バイクやスクーターだらけの駐輪場で唯一の怜のママチャリが仲間に加わっている。
いつ見ても異質だ。
父兄参観か。
声に出して突っ込む気は、今はない。

「とりあえず、あんま暴れんなよ。俺忙しいし。戦争とかめんどくせーし」
「なっ」

お前にかまってる暇もないし。
ようやく口を開いたかと思えば、分かりきった忠告プラス付け足された言葉にイラッときて舌を出す。

「ふん」

怜はそれを鼻で笑って自転車にチェーンを回すと、東棟旧校舎へ消えて行った。
スラックスから垂れるアクセのチェーンにぶら下がる黒猫が笑う。

黒猫。白猫。ネズミ。

この学校では死活問題だ。
それを馬鹿馬鹿しいと一括する彼女には、知らない世界のほうがきっと多い。

穏やかではない話など日常茶飯事だ。
腕の立つ兄ですら、いつ酷い怪我をしてくるかわからない。

「…しっかりしなきゃ」

兄は知っていたのだろうか。
最近、己と彼女を呼び出したことに関係がある話?

猫が仕切る、二分された三苗。
喧嘩ばかりの、粗野で乱暴な世界。
彼女にあの場所は似合わない。

どちらにもなびかないから、物珍しさに寄ってくるのだろう。
興味がないと言う理由で、力に屈することはない。
それなりに恐れられている者に対してもバカばかりと評価を下したくらいだ。
黒瀧だろうが藤後だろうが、彼女は怯まないはずだ。

それだけに心配ではある。
喧嘩に強いばかりが身を守る術とは言わないが、それでも。

「まぁ、何かあれば、あたしがぶっとばせばいー話じゃん」

黒猫だろうと白猫だろうと関係ない。
その時の私は、そう思っていた。

ただ純粋に、大切な友人を魔の手から守ることが良いことなのだと。

そう思っていた。


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mokuji
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