009

自分でも先輩(の前に不良集団の役持ち)に向かって随分と生意気なことを言っている自覚はある。
なのに相手は腹を立てるどころか腹を抱えて笑っている。
明らかにこの不良だらけの学園にはそぐわない私を何故こうも買うのか分からないが、私は「面白い人間」なのだそうだ。

何が、どのあたりが面白いのか。
本当に、萩谷家は兄妹揃って変わっている。
嬉しいんだか悲しいんだか分からない複雑な心境だ。

氷も無くなったグラスから顔を上げると、真南がトイレからハンカチをくわえて出てくるところが目に入った。
トイレ付近で空くのを待っていた他校の女子高生が会釈しつつ入れ違いに入っていく。

カーデからほんの少ししか見えないくらい、スカートが尋常じゃなく短かったことについて少々物申したいがぐっと堪える。
私は教師でも昨今の若者の実体を嘆く中高年でもない、ただの高校生だ。
それでも脳内で想像するくらいは許されるだろう。

もしかしたら磯野家の住人なのかも、とか。
風吹いたらワカメちゃんになれそーだなとか。

「あ。アイツやっと出た。ったく…ウンコか?…ぶ、っ…くくっ」

妹のトイレ事情でそんなに笑えるものなのか知らないが。
自分で言って自分でウケている真生に苦笑する。
真南の長トイレ事情にそんな事実があったにせよ、全くもってどうでもいいっつーかなんつーか。

「ねー」

同意を求めてくるからとりあえず「あははー」と曖昧に笑っておいた。
何も知らない真南がニコニコ顔で帰ってくる。
兄妹揃って低レベル、ごほごほ。…仲良しなところが垣間見えた瞬間だ。

今の、別に笑えないとか絶対言えない。

「何話してたの?」
「んー。いつも真南がお世話になってますって」
「ウソだね。ウンコしてたとかゆってたでしょ。残念でした、化粧直しですー」
「断言はしてないよ。疑問符つけたもん」
「!!やっぱゆってたんじゃん」

漫画みたいにプンプンしながらテーブルに散らかったゴミも全てトレーを一つにまとめ、真南がゴミ箱へ直行する。
トイレに立ったついでらしい。
こういうところは良いご家庭でお育ちになったのだろうと思えるのだが、如何せん「良くない」と書いて不良の道を突っ走ってらっしゃるこの兄妹のことだ。
こういう唯一マトモなところは普段の行いに埋もれること確実だ。

「あーあ、」下唇を尖らせる。
実に残念でならない。


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mokuji
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