008

(黒猫の次は白猫かよー…)

モテる女はツライ。
こういうモテ方は求めていない。
愛が重すぎる…
断るのって、本当苦労するし体力使うんだから。

「真南が心配してるからってのもあるけど。俺も姫のことは気に入ってるんだよ」

にっこり。
それはにっこりと。
一時韓流ブームを巻き起こしたヨソ様みたいに微笑む真生。
微笑みの貴公子とまではいかないだろうが。
キシリトールガムのCMに出たら完璧だと思う。

彼は妹と同じ薄茶の猫毛を撫でつける。
真南もそうだが、独特の雰囲気がある男だ。
白猫というより、茶トラ。…アビシニアンとか?

「姫ちゃん、聞いてる?」

(つーか、だいたい姫って何だよ。お前いつからあたしの友達になったんだよ。兄妹揃ってコレかよォ)

「聞いてますよ」

聞いていますから、姫は止めろ。
作り笑顔が引きつっていく。

「どうして嫌なの?君みたいな普通の子がネズミでいるのは相当難しいと思うんだけど」

どうして、と言われても。
不良の仲間になんてなりたくないからとしか言いようがない。

猫同士の喧嘩には学外の生徒や、無関係の人たちも巻き込まれている。
酷いときは警察沙汰になった。
それでも厳重注意、謹慎処分程度で済まさされたという。

「私は周りの迷惑を考えない人が嫌いなんです」

トレーの上に散らかったストローの袋を無闇に結んだりして、私の指は所在なく動く。
此方の緊張など気づいているのかいないのか、真生はにこやかにふうんと頷いた。

「猫同士、学外でも喧嘩してるじゃないですか」

周りの人まで巻き込んで何がしたいのかわからない。
語尾はもごもごと口ごもる。

「好き勝手に暴れてるのは黒猫でしょ」

真生は苦笑混じりに否定し、ポテトに手を伸ばした。
他の男子のようにゴツゴツしていない、細くて綺麗な手。
自分のものとは似ても似つかない。

手のひらだけやたら広くて、指は決して細いほうでも、長いほうでもない。
真南もそうだが、うらやましいことだ。

「白猫は違う。できれば黒猫とは区別してほしいな」

言いたいことは言った。
良い悪いというより、単に迷惑な人間が嫌いなだけ。
自分は、彼らとは違う世界の人間なのだ。

「どう違うんですか」

単に家から近いからという理由だけで三苗高を選んだわけではないのだが、どう考えても自分には不釣り合いなことばかりの学校生活に不満はある。

「うーん…」

首を捻る真生。
私は小さく息を吐く。

(ここに来たのは間違いだった?)
(違う。…ちがう)
自問自答する。
認めれば真南と出会ったことすらも否定されてしまう。
自分に関係のないところで敵対する勢力に左右されるなど、おかしい。

今のままでいるのは、そんなに難しいことなのだろうか。

「白猫はね、黒猫以外はターゲットにしない。純粋に三苗の征服だけを目的にしているんだ。だから役割分担が徹底されてる。おやつ係っていうのもあるんだよ」

純粋に、シマ争いだけをしている。
そんなものは詭弁だ。
そもそも、喧嘩すること自体が誉められたことではないのに。

「私にとっては黒猫も白猫も同じです」
「そう来るかー…あははは」

君、本当に面白いよ。
相変わらず彼は愉快そうに笑っている。


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mokuji
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