007
* * *
ずず、…ずずず。
最早何十回目かわからない。
氷だけになって、水っぽいジュースが途切れ途切れにしか出て来なくなってもストローを啜る。
それしか この雰囲気の中、己を保つ術が見つからない。
「白猫に、入る気ない?」
究極の二択を迫られてしまった今。
居心地は良いとは言えなかった。
ゴールデンウイークに入る前からやたらと憂鬱過ぎる。
黒猫に誘われるわ、背中はボールにいじめられるわ、白猫に誘われるわ、今週は厄日続きなのか。
「嫌です」
私は微妙に目を逸らしつつ答えた。
妹の友人ということで良くしてもらってはいるが、信用仕切れない。
真南がいない今、引っかかれないという保証も、無い。
「あはは。即答かぁー…君、本当面白いね」
長い両腕を後頭で組み、彼はからからと笑う。
「マナが白猫のナントカ係ってこと、知っちゃった手前無関心ではいられないですけど」
(猫同士のシマ争いなんて馬鹿馬鹿しいことに巻き込まれたくないんで)
目の前には人の良さそうな笑みを浮かべて妹の友人を興味津々に見つめる男。
萩谷真生(はぎやまき)。
真南の兄であり、白猫の幹部である。
ランチタイムになるや否や駅前のファーストフード店まで引っ張ってきやが…連れてきてくれた萩谷兄妹に、心の底から溜め息が出る。
彼らが善意で気にかけてくれているのは分かっているのだが、私の平和な日常が壊れつつあるのだ。
新商品のハンバーガーセットで誤魔化される気は無い。
(それに…)
先程からトイレに立った真南が帰ってこない。
混んでいるのだろうか、はたまたナンパでもされているのだろうか…
心配というより、自分のほうが既に限界だ。
今すぐ此処から消え去りたい。
「白猫のほうが安全だって。会費もないし、女子も多いよ」
毎日毎日 猫、猫、猫。
放っといてくれというのに。
正直ウンザリだ。
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mokuji
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