006

「私、ちゃんと説明してなかったんだね。まぁ何も無かったならいいけど」

東棟は古い校舎で、普段使われる南棟に比べて耐震性だの何だのが危ういらしい。
取り壊してから再度建て直す方向で話がまとまっているのだが、去年まで使われていた部室やロッカーも大半が其方側にあるために意義を唱える生徒も多く、動かし難いらしい。
故に本格的な作業は進んでいない。

教師の目の届かない旧校舎。
薄暗く、近寄りがたい。
それが無くなれば今まで散々好き勝手に出来ていたことが出来なくなるのは明白。
委員会で忙しいのもあって部活動経験の浅い自分には、部室というものがどれほど居心地がいいものかなど知る由もないが。

結局、自分たちの城が無くなるのが我慢ならないのだろう。

南棟から続く新しい部室棟の最上階を陣取る白猫からすれば、「過去の遺物は早く取り壊すに限る」だそうだ。
そもそも、白猫は東棟に出向いたりはしない。
黒猫に比べてやや潔癖なところがあるのも白猫の特徴と言える。

…以上、友人談。



「ねね、お昼、どうする?マック行かない?」

授業も残り5分、という頃に隣の小動物からランチのお誘いがかかった。

「え、外出るの?」

突っついてくる真南の指がくすぐったくて身を捩る。

「うん。真生兄が奢ってくれるって言うから。行こうよー」
「ダメだよ。午後だって授業あるのに」
「ダメじゃないよ」

声を落とす私に、真南は下唇を尖らせて意義を唱えた。
一瞬、絆されそうになって はっと我に返る。

「放課後なら付き合うけど…って、ダメだ。今日バイトだった」
「ほらー、だから昼休みに行こ?」

何が「ほら」なんだか。

最終的には絆されるんだろう、自分の学習能力の無さには本当に呆れる。
結局適わないのだ。
この甘え上手の小悪魔にだけは。


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mokuji
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