005

ずんずんずんずん。
イライラと教室へ戻り、後ろのドアに手をかける。
古文の授業は既に始まっていた。

「灰葉さん?どうしたの、遅刻なんて珍しいわね。予鈴聞こえなかった?」
「すみません、遅れました」

ぺこっと頭を下げる。
クラスの殆どの生徒が反射的に後ろを振り返り、注目を浴びたがそれも一瞬のことだ。
「こほん」教員のわざとらしい咳払いに、皆前を向く。

「姫ちゃん、早く」

真南が頬杖をついていた顔を上げて早く座れと手招きしてきた。
教科書と携帯電話しか机に出ていないように見えるのは恐らく気のせいではない。
全く仕様のない友人だ。

「次、関口さん 訳してみて」
「はい」

女性教員は私を見て目を細めたが、直ぐに授業を再開した。

カツカツと黒板を滑るチョークの音が無機質に響く。
黒板をノートに写し取る、なんてごく普通の授業態度でいる生徒などは稀だ。
このクラスに至っては、私と学級委員の男子生徒くらいだろう。
皆、携帯電話をいじるか寝ているか。
私語以外は黙認されているのもあって、だいたいの生徒が授業とは関係ないことをしている。
真南も例外ではない。
最初の頃は何て不真面目な、とこの光景に面食らったものだが。

定期テストや模試の結果は毎年どのクラスも良好。
学生としての勤めは果たしている。…ことになっている。
うちの校長も、何を考えているんだか。

「トイレ行っただけなのに遅かったから心配したんだよー。どうしたの?何かあった?」

席に着くなり、真南が机をくっつけようと寄せてくる。
私は彼女がやりやすいように鞄をもう片方のフックにかけ直してやった。

「こっちのトイレ混んでたから東棟行ってきたんだよ」
「東なんか行ったの?あっちは旧校舎だし使われてないの良いことに黒猫の溜まり場になってるから危ないよ」
「あー、そうだったんだ」


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mokuji
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