003
「二、三確認したいことがあるんです…お時間は取らせませんから」
だから何なんだ。
ここは渋谷の駅前か。
あたしはアンケート調査にでも引っかかってんのか。
後輩である私に敬語を使う先輩は、忙しなく瞬きを繰り返した。
どこか落ち着かないといったふうで周りを警戒している。
「で、なんなんすか」
私はイライラしながらも先ほどの変な敬語を繰り返した。
先輩とはいえ、こんなモヤシが一体何の用なんだ。
「黒瀧さんからの、集会のお知らせです。灰葉さんは入ったばかりだからきっといろいろと困るでしょ。それで、幹部でも一番下っ端の僕が案内するようにって」
黒瀧?
(誰だそれは。)
集会?
(何だそれは。)
幹部でも下っ端?
(え…あんたが?)
ごちゃごちゃと考えてから、私はふと記憶から綺麗に抹消されていた人物の名前を反芻した。
例の温泉みたいな名前の男のことだ。
それにしても何て都合のいい脳みそだろうか。
昨日の保健室での出来事から今朝にかけて悶々と悩んでいたことを、今の今まで忘れていたとは。
状況を整理しよう。
私は、傍観派のネズミに属している。(一応)
私は、黒猫の幹部に喧嘩を売った。(らしい)
私は、白猫のメンバーと友達だ。(いや本人否定してたんだけど)
私は、黒猫に勧誘された。(イマイチ意味がわからんが)
で… 幹部の下っ端(にわかに信じがたいが)が私にアポ無しでコンタクトを図ってきたと。
「………なんすかソレ」
サーッと一気に血の気が引いた気がした。
冷や汗が額から目尻へ伝っていく。
「あの…大丈夫?ですか」
笹沼先輩が少し体を屈めて覗き込んできた。
大丈夫ではないが、そんなことよりも私はあなたが大丈夫ですかと問いたい。
だってあなた仮にも幹部でしょ。下っ端つっても偉いんでしょ。
何故そんなに腰が低いわけ。
引くわ。
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mokuji
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