002
取り巻きは馬鹿にしたような顔でこちらを見ていたが、古賀は我関せずとゲーム機をいじっていた。
HR中くらいゲーム機はしまいなよ。
先生に軽く同情。
暢気に考え事をしていた私が、彼らと同レベルにされてしまったのかどうかは気になるところではあるが。
隣では、未だ笑っている真南。
「そまってない」
ボソッと呟いた声はしっかりと友人に届いていた。
「姫ちゃんご機嫌麗しゅう…怒っちゃだめだぞ」
「姫って言うな」
「…それはご命令ですか?姫」
命令されたいのか、この無邪気S(サド)っ子が。
命令したところで、彼女が大人しく従うようには到底思えない。
イラッとしたのは一瞬だけ。
まあいいか。
なるようになるでしょ。
そもそも…私、何に悩んでいたんだっけ。
鶏は三歩歩くと忘れるというが。
人間でも三秒思考停止させられれば忘れることはあるらしい。
気づけば考え事など吹き飛んでしまっていたのだ。
あり得ない事に。
* * *「あ…あの…灰葉さん」
東棟の3階通路。
蚊の鳴くような高い声が私を呼び止める。
「はい、なん……すか」
振り向いた私は目を疑った。
声の主は予想に反し男子生徒。
紺地に緑のチェックのスラックスは間違いなく男子である証だ。
しかも先輩(帯のストライプが緑だった)。
こちらは砕けた言葉を用意していただけに、言葉に詰まってしまった。
変な返事にもなる。
「あ…ええと…少しいいかな」
「…5分程度なら」
キョロキョロと周りを見渡して、彼(変声期は終えたのだろうか。やたら声が高いが男性だ)は私の上着の裾を軽くつかみ、こそこそと廊下の端へ移動する。
「あのー?」
壁に張り付くくらい端に寄らされて「ぐえ」と乙女らしからぬ声が飛び出した。
「すみませんすみません」
謝り倒す相手に次第にイライラしてきた。
だから、何なんだよ。はっきり言いたまえ。
「え、えっとー…僕は笹沼高志(ささぬまたかし)といいます。はじめまして…ですよね」
「はぁご丁寧にどうも…」
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mokuji
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