010

真生のことも正直好きにはなれない。
真南も、此方がそう思っていることは知っている。
下手に善人ぶる必要がないからいい。
一緒に居て、気を遣わなくて良いのは楽。
理由はそれだけではないけれど、私も真南のことが好きだ。大切にしたいと思っている。
だから、出来れば学校関係での隠し事は無しにしたい。…と思うのだが。

「白猫は私が顔きくっていうのもあるし、大丈夫だとは思うけど…どっちにしても、猫に喧嘩売ろうなんて絶対しちゃダメだよ」
「…はぁ」

事実、今朝やらかしましたが。

熱弁をふるう彼女に、そこまで言える勇気はない。
喧嘩を売ったつもりはなかったが、相手の受け取り方次第でどちらにも転んでしまう。
何もなければ、それに越したことはないのだけれど。少し心配だ。

「あ、そうだ。これは絶対言っとかなきゃいけなかったんだった」
「ん?」
「黒猫の幹部の…」

真南が声を落として何か言いかける。
「え、何?」よく聞こえなくて、耳を傾けたそのとき。

ばしんッ

後背部に強い衝撃。
一瞬何が起きたかわからなかった。
視界がぶれる。声が出せない。息すらも出来ない。
まるで呼吸の仕方を忘れてしまったみたいだ。

ボールが弾む音がした。
ああ、流れ弾に当たったんだ。
クソ男子共め。すげー痛いんですけどふざけんな。
悪態は口には出せなかった。
体は言うことを聞かず、冷たい床へと伏す。

「っ……ッ…ぃ……」
「雪姫ちゃん!」

真南の声が遠くで響く。
気が遠くなる。

振り払おうと、必死にもがいた。
返事をしなければ。
はやく、早く。
真南が心配する。

それでも頭は真っ白で、何も考えられない。



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mokuji
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