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「次の授業、バスケだって。あと今日はB定食がカキフライからコロッケに変更…か。まぁ今日は姫ちゃんも私もお弁当だから関係ないけど」
「またえらく情報早いね」
「ふふん、任せなさい」

4月27日 水曜日。
2時限目の生物が終わり、次の授業は体育だ。
この日だけは、休み時間になった瞬間に男子生徒は問答無用で廊下へと放り出される。
血気盛んな男子がいないのは都合がいい。
一昨年まではわざわざトイレで着替えたりしていたと聞いたが、毎年少しずつ女子が増えつつあるため考慮されたのだろう。
クラスの三分の一もいない女生徒が(平和に)着替えられるように、というこの考えには賛同できる。

と、知ったのはつい先日なのだが。
そういった情報も全て彼女から教わった。
友人・萩谷真南(はぎやまな)。
三苗高の二大勢力・白猫の幹部に属する兄を持つ、情報通。

「次の授業、同じチームになろうね」

4月の下旬。春といってもまだ肌寒い。
短パンで足を晒すのにはまだ抵抗がある。
ほかの女子たちも下のジャージだけは穿いている者が殆どだ。

「そうだね」

不良同士で球技の授業。
男子と女子は別々に分かれて行うが、流れ弾が当たってくることは確実だ。
頷けば、真南はだぶだぶのジャージの袖を肘まで捲り上げながら無邪気に笑った。
私も紺色のジャージに手をかける。

隣では暢気に鼻歌を歌う友人。
背が低く、華奢な体をしている。
だが可愛らしい外見とは裏腹に、実のところ非戦闘員ではない。
彼女も立派な白猫のメンバーだ。つまりヤンキーだ。
どこまで弱みを握られているか定かではない。
一番敵に回したくないタイプともいえる。

「あのさマナ、そんなことよりさ」
「大丈夫。姫ちゃんのことは、ちゃんと私が守ってあげるから」

それよりも、だ。
私が言及したいのはそういうことではない。

「いや、だからさ、前から言いたかったんだけど」
「もう、なーに姫ちゃん」

「その「姫」っての、やめてくれませんか。恥ずかしい」
「姫ちゃんジャージ、ここ解れてるよ。縫ってあげようか」
「聞けよコラ」
「やん怒らないで」

イラッとした私に、真南はどうどうと両手を掲げる。
「やん」にもイラッときたのだが、今はどうでもいい。
ようやく会話ができてうれしい限りである。

「つうか、あたしが姫って柄?」
「あはは。だって白雪姫みたいな名前なんだもん」

今更ながら、私の名前は灰葉雪姫(はいばゆき)という。

雪の姫と書いて「ゆき」。
酔狂な親を持ったことに内心ため息が出る。
可愛らしいといわれるのは嫌ではないのだが姫の部分だけをあだ名にされ、呼ばれるのは恥ずかしい。慣れない。

「雪姫ちゃんて言動がSなくせにたまに可愛いこと言うよね。ツンデレだ」
「いや…ツンデレとは違うんじゃないかなぁ」

そんなオタクが好きな萌え要素があるとは思えないというか、そもそも嬉しくない。

友人は気にせず私を「姫」と呼ぶ。
彼女のほうがSだ。
私が訂正しようが否定しようが、無邪気に笑っている。

真南は私の嫌そうな顔を見るのが大好きなのだ。
いじられるこちらからすれば溜まったものではない。

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mokuji
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