003




面倒事は好きではない。
極力避けたいと思うのに。
目の前の暴力を見過ごすことがどうしてもできない。
変なところで妙な正義感が生まれるのだ。
小・中と学級委員をつとめていたこともあって、不平等なことには納得がいかない。
損な性格…というか、これではただの馬鹿だ。

「ああ?んだよ、邪魔すんの」
「ひいっ」

茶髪が私を見下ろす。
鋭い眼孔は獰猛な獣そのものだ。
低く唸ったその声に私よりも眼鏡君のほうがビクついていた。

「これ見えないわけ?女の子でもルールは絶対。逆らったらどうなるか知ってるよね」

己のネクタイを軽く引っ張って、帯に止めたピンバッジをこれ見よがしに見せてくる。
銀の縁取りに、牙をむいた黒い猫の顔。
随分可愛らしいが問題はそこではない。
それを見れば、知識のない私にもその意図は十分に理解できた。
下っ端だろうが幹部は幹部だ。
逆らえば面倒なことになる。

《あー…猫に逆らってるよあの子…》
《勇気あるなぁ》
《馬鹿なんでしょ。仮にも城多先輩に…》
《かわいそー。引っかかれるよあれ》
《しっ、聞こえるよ》

私たちを遠巻きに通り過ぎる通行人、生徒たち。
そこには言葉を交わしたこともあるクラスメイトも混じっていた。
皆「見てみぬふり」。
当たり前だ。
私だって、この一ヶ月何事もなく生活してこられたのは、「そう」してきたから。
今日のような明らさまなものは初めて見たが、カツアゲ、パシリ、イジメ。その程度は珍しいことではない 。

だが。

(これは…まずったかな。やっぱ)

回収しているのが幹部だとは知らなかった。
下っ端を纏める者がそういう仕事をするのだろうが…思ってもみなかった。

止めに入ったのが初めてだとはいえ、考えなしもいいところだ。

(最初の最後でいきなり人生終わったかも。)

あはは。引き攣った笑みを浮かべるしかない私に茶髪が詰め寄る。

「っ…し、失礼しますっ」

しばらく此方の様子を窺っていた眼鏡男子が、不意に声を上げた。
茶髪に一礼すると足をもつれさせながら校舎のほうへと全速力で駆けていく。
私になんか目もくれずに。

これも、当たり前だ。
標的が自分以外に移ったのだから、彼の立場なら当然逃げるだろう。
頼まれてもいないのに私が勝手に割って入ったのだ。
悲しいと思うほうがおかしい。




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mokuji
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