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またか。
学校の敷地内に近づけば近づくほど目にする見慣れた光景。
視界に入るのは今日で三回目。
私は大きく溜息をつく。
この学校に入学してそろそろ一ヶ月だが、入学初日から換算したら何十回になるか定かではない。
それだけ此処では「当たり前」で「ありふれた」ものらしいから。
私の常識では考えられないけれど、それがまかり通っているのだ。
明らかに戯れの域を超えたものであっても。

「だーから、じょーのーきんだって言ってんの。それ黒猫に逆らうってことだよ。わかんないかなぁ」
「で、ですから、今月は勘弁してください…これ以上はママにバレちゃう…」
「はぁー?ママがダメならパパからもらえばいいじゃん。勉強できるくせに馬鹿だねぇキミ。それともMなの?」

自宅から出て遮断機を渡った先、三つ目の角。
一週間前あった勢力争いの後ひん曲がったガードレールは未だ舗装される気配がない。
坂道を登れば校舎はもうすぐだ。
使用目的を果たさないガードレールの脇には男子生徒が二人。
一人は眼鏡をかけた「真面目」風、もう一人は明らかに「不良」風。
身を守るように小さく体を縮ませる眼鏡男子に詰め寄る茶髪男子がそれこそいつもの光景を作っていた。

茶髪のほうは180cm程あるようだ。
小柄な眼鏡のほうが余計に小さく見えた。

おそらく二人は黒猫のメンバーなのだろう。
下から金を巻き上げるやり方をするのは黒猫側の勢力だ。
黒猫も白猫も物騒な連中という認識しかないからどちらを立てるというつもりもないが、この点だけに集中するなら白猫のほうがいくらかましだと思う。

上納金と称して傘下の者から一定の金額を徴収する…というのは建前で言ってみればただのカツアゲだ。
提示された額を収めない者には容赦なく制裁が加えられる。
幹部の「猫」たちに「引っかかれる」のだ。
それは痛いとかそういう次元の話ではなく、血が流れるほどの次元の話を言う。

「見ないふり…見ないふり…」

いつものことだと、やり過ごそうとした。
けれど、すれ違い様にはっとする。
眼鏡の男子生徒をよく見れば、転んだのではないだろう痣に、汚れた制服。
その表情は泣きそうというか、すでに泣いている。
俯いていたから初めは分からなかったが、明らかに彼は「引っかかれ」ていた 。

「いいから金出せよ財布君」
「っ…」
「あー…諭吉君?だっけ」

けらけら笑いながらもう一度、茶髪が拳を掲げるような仕草をした。
その瞬間。

「ちょっと!ストップ、ストップ」

私は我慢出来ずに呼び止めていた。




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mokuji
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