003

祭司に選ばれるということは、とても名誉なことだとされている。代々、魔術師から選ばれ、祭司を務めた者は魔術師としての成功が約束されるからだ。
けれども、今回は違う。
エレーナは魔術師ではない。
そこが、あの人と違う点だった。前例がないからこそ、何が起きるか分からない。
何事も無ければよいと願っているが、それでも嫌な予感は拭えなかった。
「エレーナ。確かに祭司に選ばれることは、素晴らしきことです。ですが…貴女は祭司の意味を正しく理解していますか?」
自分やライルにとっては当たり前だが、エレーナは何も知らないだろう。
レインは、真面目な顔でエレーナを見据えた。
王家が、箝口令を敷いてまで隠してきた事実を話す機会は、今しかない。
そして、エレーナには聞く義務があった。


「あの肖像画の人物は知っていますね?」
レインは、歴代の魔術庁長官の肖像画で一番新しい物を指差す。
そこには、波打つ金髪に紫色の瞳の、美女が描かれていた。
この国に生まれた者なら、知っていて当然の人物。
「はい。エスタリア・ナディール様です」
その答えに、レインはにっこりと笑う。
「そう。これが描かれたのは、彼女が十五歳の時。この時すでに彼女は、自分の残りの時間が長くないと知っていたわ」
エスタリアは、この五年後に魔族の王と相対することになる。
結果は、知っての通りだ。「私が毎年、気が塞ぐのは彼女に…懺悔がしたくても叶わないからよ。私が勝手に嫌って、彼女のことを見ようとしなかった。見ていれば、今と結果は違ったかもしれない」
魔術師は、言葉に魔力をこめて自然を動かす。故に、あまり多くを語ろうとしないと聞く。

5/33

*prev next
mokuji
しおりを挟む
index
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -