002

建物の中に魔術師たちは一人もおらず、閑散としている。
それもそのはずだ。
魔術師たちは、祭司が決まるまでの一週間、休みでいない。かといって魔術庁を無人にすることはできないので、トップ三人が残って仕事をこなしている。
レインを迎えに来た魔術師は、ナンバー3の実力者だった。

執務室まで来ると、魔術師はドアを開けた。
中には、長官と副長官、それから今年の祭司がいた。
「お呼びだしして申し訳ありません」
長官であるライルは、その顔に微笑を浮かべながら、レインを迎える。
彼は、いくら年を重ねようとも相変わらずのようだ。
一見穏やかそうに見えるが、エスタリア唯一の弟子であり、弱肉強食の魔術界で五十年間、その地位に在り続けている実力者だ。

「気になさらないで。あなたも相変わらずのようで何よりですわ。………ついに決まったのですね」
レインは、祭司をちらりと見て、苦笑いしてライルに問うた。
その笑みの意味が分かったライルもまた、同様に笑った。
「はい。間違いありません。今年の祭司は、第四王女・エレーナ様です」
レインは内心、やはりそうだったかと溜め息をつく。
何となく分かっていたことだった。いつか彼女が祭司に選ばれるであろうということは。
現王の子供たちの中で、エレーナだけは他の兄弟と纏う雰囲気が違っていた。まるで、エスタリアが生まれ変わったのかと錯覚するほどに。
「やはり…血は争えませんわね。宿命から逃れることはできないということでしょうか」
あの人が内に流れる血から逃れられなかったように、孫娘もその血に飲み込まれてしまうのか。
「お祖母様。何故そんなに悲しそうなのですか?私は、選ばれて嬉しいですよ?」
エスタリアと似た容姿でエレーナは言う。

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mokuji
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