002

『うるさい』

かすかに声が聞こえたが、一体何処から、と辺りを見回す。すると見落としそうになったが、確かに姿があった。

エスタリア様、とエルガが呟く。隣の彼の姿を見れば、先程の表情から一転し驚愕。

やはり、彼女がエスタリアだ。魔術庁で見た絵姿と変わらない。魂だけであっても圧倒される魔力の強大さに、ふるり、と体が震えた。

エスタリアが腕を横に振ると、ケンカ中の二人の頭上から大量の水が降り、辺りを水浸しにした。

「なっ!?」
「っ!!」

『…二人とも、やかましい。良い年して何をやっておる、早く姫を案内せよ。…エルガ、そなたも面白がらずに止めよ。退屈ならば、私が相手致そうぞ』

「「…ま、間に合った!」」

「あ、ルクス、カトル」

神殿の中から走り出てきた人影は、胸に手を当て息をつく。

「「久し振り、エレーナ」」

目の前の二人は、同じ顔で微笑む。
二人は、私と従兄の関係だ。双子の彼らは、彼らの父同様『破壊の双子星』という、あまりよろしくない通称を頂く。――どうよろしくないかは、推して知るべし。

「久し振りね。……ところで間に合った、って何?」

こちらへ駆け込んで来た時の発言に首を傾げれば、ああ、と言ってルクスが説明する。

「父上と母上のケンカは、僕達じゃ止められないから、火の海になる前に今回はエスタリア様においで願ったんだ」

「そうそう。エルガ殿は面白がって止めないしねぇ」

そういって、二人は大人たちの方を見遣る。同じように視線を向ければ、項垂れる三人の前にエスタリア様が堂々とした仁王立ちで説教していた。

やがて、説教が終わったのか彼女はにっこり笑うと、この場を締めた。

『まぁ、説教はこの位で良かろう。さぁ中へ入るぞ。中の結界は一時的に解いてきたから、姫も臆することなく付いて来やれ』



★☆★☆★☆



「……ふぅ」

大きなベッドに転がる。

はしたないと、ここに咎めるルーナはいない。姫にあるまじきと言われようが、幼い頃から言われ慣れてしまっている。

案内された部屋は、王宮と何ら変わりない程に華美だった。天井を見つめ、装飾の中にナディール家の家紋を見つける。

――昔、祖母が教えてくれた謂れによれば、ナディールは『裏の王家』らしい。家紋である龍と月は、初代の守護獣と、王家の家紋である太陽の対を表したものであり、そこには初代の意思が込められているのだという。

内容までは詳しく教えてもらえなかった。




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mokuji
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