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『五十年前のあの日』とは、エスタリアが己の命と引き換えに魔王を倒した日を指す。
老婦人――前王妃は、一度目を閉じると、視線をリーガ山脈の山際へ投げる。
あの山の向こうに、エスタリアが永遠の眠りに就く場所がある。

前王妃にとってエスタリアは、かけがえのない者だった。当時は彼女が大嫌いで、傷つくようなことをたくさん言った。彼女に護られているとは知らずに十四年生きていた。
全てを知った時には、遅すぎたのだ。
あの時、言いたい言葉があったが、言う前に彼女は亡くなってしまった。


あと数週間ほど経てば、彼女の功績を讃えた祭が国をあげて行われる。
今日は、その祭の主催者である祭司が決定する日だ。

「レイン様。ライル長官から祭司の発表がございますので、魔術庁へお越しください、と言伝てがございました」

前王妃、レインは長椅子から腰を上げると固く拳を握る。

「参ります」

五十年という節目を迎え、例年よりも盛大になるであろう行事に、レインは不吉な予感がしてならなかった。
胸に嫌なしこりを残しながらも前を向いて魔術庁へ向かった。

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