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ライル長官の語った魔術師の『真実』はエレーナに重くのしかかった。

自分には、ヒトの血も流れている。
こればかりは、いくら努力しても変えられない。

しかも、魔術師にとって最も憎き存在であろう、ヒトの頂点に君臨する王族の血筋だ。

私は、いや、私達は生まれながらにしてライル長官に嫌悪されていたのか。

普段穏和なライル長官が垣間見せた本音に、傷つく。
自分が皆から好かれている、などとは思っていない。むしろ、あまり感情が表に出ないせいか、敬遠されている自覚がある。

そんな私に対しても、他人と接する時と同様にしてくれていたから、なおさら衝撃は大きかった。

ふと、ここである疑問を抱く。

魔術師がヒトを嫌悪するならば、何故…。

「ライル長官。一つ訊きたいのですが…魔術師がヒトを嫌悪しているなら、何故お祖母様はお祖父様と結婚したのですか?」

お祖母様とお祖父様は、こちらが呆れるくらいに仲が良い。二人の間に魔術師とヒトという確執は存在していないようだ。

「…魔術師は、この大陸にいる全てのヒトを嫌悪している訳ではないのです。ごく一部のヒトと魔術師は互いに共存してきました。その筆頭が、アウラ女王陛下です」

「アウラ女王陛下…ですか!?」

「はい。ご存知の通り、グラディアを建国せし偉大なる女王陛下ですね。『暁の唄』にあるようにレティシア様と親友になり、即位後は裏から魔術師を支えられていたそうです」

千五百年前から魔族も魔術師も相違無きものと捉えるのが常であったようだが、アウラ女王は既存の枠に囚われない思考でもって魔術師を受け入れていたという。

「ですから、女王の嫡孫であるグレイル様とレイン様が恋仲であることに、エスタリア様は反対されませんでした。ただ、ヒトを統治する王家の血に魔術師の入れても良いのだろうか、と悩まれていたようですが」

魔術を使えばその都度ヒトからかけ離れていってしまう。魔力に頼るのではなく、ヒトの力で統治すべきだとエスタリア様は考えていたらしい。


「魔術師は、ヒトが嫌いですが、例外もあるとわかって頂ければ十分でございます」

そう言って、ライルは立ち上がると執務机の引出しから何かを取り出して、エレーナに差し出した。



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