〜暁の唄〜

サイト2歳企画
『運命の螺旋』【番外編】〜暁の唄〜



グラディアには、様々な伝承が物語として伝わる。なかでも、遥か昔から語られ絶大な人気を誇るのが、『暁の唄』という物語だ。

もちろん、レティシアやエスタリアの話も人気ではあるのだが、暁の唄は他と一線を画す。

暁の唄の舞台は、神話時代。
エレーナたちが生きる現代から遡ること、およそ千五百年。
まだ、グラディアがデネボアという小国だった頃のこと。


この時代は、各国が領土争いを繰り広げ、毎日が死と隣り合わせの日々が続いたという。
そんな中、戦場で一際目を引く娘がいた。

激動の時代に現れた娘は、後に歴史に名を刻むことになる。


☆★☆★

これは、後に自分と親友になる人物との、出会いの話―――。


「……っ!本当にきりがない」

娘は、魔族に肉薄すると、銀色に輝く細身の剣を一閃する。

その一閃を浴びた魔族は、断末魔の叫びを上げた後、さらさらと音を残して灰と化した。
だが、息つく暇はない。

ここにたどり着くまでに十数体の魔族を屠って来たが、彼らの気配が絶えることがない。

次々と襲って来る彼らをまともに相手していれば、こちらの体力が底をつく。

倒せど現れる魔族は、憶測だが根本となるものを叩かなければ消滅しないのかもしれない。

だが、自分にはその根本が見えない。自分がいる場所に確実に魔族をけしかけて来るのだから、近くにあることは間違いないだろう。
(…一体、どうすればいい?)

向かって来た魔族の首をはねると、剣を正面に構える。
冷たい光を放つそれは、この修羅場にあっても存在感を放つ。

その剣が手の中で小刻みに震え始める。
娘は、剣を見据えると小さく呟いた。

「…力を貸してくれるのか?スコール」

娘の問いに、剣が大きく振動すると同時に眩い光を放った。

ドクン、と鼓動が跳ねる。
手先の冷たさとは裏腹に、まるで炎と化したかのように心臓が熱い。

光は、十数歩先の大木に向かって真っ直ぐ伸びる。

共に戦場を駆け抜けてきた相棒が導き示している、あの大木が魔族を発生させている根源に間違いない。
ならば、と地を蹴り、駆け出そうとした刹那――。

「お行きなさい、エーアデル」

凛とした声と共に、娘の右横を紅き彗星が駆け抜けた。

走り出そうとしていた体勢だった為、バランスをくずしかけたが立て直して前方に目をやると、映った光景に呆然とする。

目に飛び込んで来たのは、あの大木を中心に辺り一面、火の海と化している光景だったのだ。

少し離れているにもかかわらず、炎の熱さが頬に伝わる。

急に炎が現れ驚いたが、何故か綺麗だと思った。

大木は、炎の熱さに勝てなかったのか、耳をつんざくような悲鳴を残してパラパラと崩れ落ちた。
大木――本体が焼かれ、周りにいた魔族は叫びを上げる間もなく灰塵となり目の前で消滅し、後に残ったのは静寂のみ。

その静寂は、自分の背後にいた人物によって破られる。

「……お怪我はありませんか?」

振り返れば、そこには『女神』がいた。

我が国の守護神、創造神アメディウスが黄金色の髪と瞳を持つという言い伝えから、デネボアでは金色は神聖色と定められている。
その神聖色の髪と紫色の瞳を身に宿す娘は、心配そうに訊ねると、自分に近づいてきた。
顔を覗き込まれて我に返ると、いつの間にか振動が止まっていた剣を納めて彼女に笑顔で応える。

「大丈夫です。助けていただきありがとうございます。女神様」

すると、彼女はこの答えが意外だったのか、目を見開いたかと思うとクスクスと笑い始めた。
「……貴女って面白いのね。私を見て女神と言ったヒトは初めてよ。ね、アステル」

今まで彼女に見とれていた為か、第二、第三者の存在に全く気がつかなかった。
視線を左前に向ければ、自分と同世代くらいの青年が、肩を振るわせて笑っていた。

自分は、おかしいことを言ったのだろうか。彼女達が笑う理由も全く見当がつかない。

「ごめんなさいね。今まで見てきたヒト達と違った反応だったから、嬉しいの」

目の前の彼女は、綺麗な笑みを湛えていた。

「残念だけど私は神じゃないわ。私の名はレティシアというの。こちらは、幼馴染みのアステル」

「私はアウラ。このデネボアの領主の娘」

互いに笑顔で握手を交わす。

「…デネボアのお嬢様?じゃあ君が、噂に聞くデネボアの姫将軍か」

今まで傍観していたアステルが、意外だといったようにアウラを見る。

資源が豊富であるが小国のデネボアが周りの大国から独立を保っているのは、鬼神のごとき強さの姫将軍がいるからだというのが、最近、周辺諸国に流布している噂だ。

そんな噂の立つ娘が、まさかこんな小柄で華奢な娘だとは誰も思わないだろう。

「アウラって強いのね!!素敵だわ」

「…周りはいい顔をしてないよ。父上は私の剣を誉めてくれるけど、周囲は、じゃじゃ馬女と影で嘲笑している」

瞳を輝かせたレティシアに、苦笑で応える。

「でも、私は剣を持つことをやめたいと、思ったことはないよ。この剣はデネボアの民を守るためにある」
例え相手が魔族であろうと、この剣はデネボアのために。

「…デネボアの全ての民、ね。ならば『全ての民』に我ら魔術師も含まれるということなのか?」

「魔術師?」

アステルの目に剣呑な光が宿る。その顔に、先程の笑みはもう無かった。
レティシアがアステルの名前を呼んで止めようとしていたが、彼は無視して続けた。

「貴女も、我らが魔力を持っているからと害するのだろう?」

魔術師が経験してきた境遇は、自分には到底想像も付かない程残酷なのだろう。異質なチカラを持つという理由だけで迫害するのは、短慮すぎる。

だが、アステルはヒトを知らない。ヒトに多種多様の生き方があるように、その考えもまた然りだ。

「…魔術師であるから迫害するというのなら、助けてもらった時に蔑んでるよ。それに、私は噂なんていう曖昧なものを信じたりしない」

噂というものは、まやかしでしかない。
この目で見て、感じたことが全て。信ずるに値するものだろう。

「私は、魔術って凄いし綺麗だと感じた。無から有を作り出すのだから」

私の答えにレティシアは瞠目すると、すぐに破顔した。だが、その紫の瞳から透明な雫がこぼれ落ちた。

「アウラは、私たちに初めての言葉ばかりくれるのね…。」

「ああ、泣かないで…ね?女性に泣かれるとどうしていいかわからなくなる…」
アウラがオロオロすると、呆れた顔をしたアステルがレティシアを抱きしめながら口を開く。

「アウラだって女性でしょ?……貴女って変だって言われない?」

「よく言われるよ…。でも、周りが何と言おうが、これが私だから変える気はない」

苦笑いと共に言い切る。


その後、三人で大陸を旅して、出会いと別れを繰り返しながら、魔王へ向かっていくこととなる。

魔王を倒した後のレティシアたちの消息はわからないが、アウラは数年後にヒトの戦を終結させ、グラディアを建国し、紅い髪と琥珀色の瞳を持つことから『暁の女王』と呼ばれ、その名を今に残している。



『暁の唄序章』より抜粋。



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