005
「…初代が、何故旅に出たかは定かではありませんが、エスタリア様と似ているのであれば『迫害』を受けていたから、なのかもしれません」
「迫害……?」
エレーナ様は信じられないというような表情をする。
それもそうだろう。
亡き後も民から英雄だと称えられ、語り継がれるエスタリア様が迫害されていたなど、今の時代では到底信じられぬ話だ。
「ええ。ヒトは、目に見えないものや強いチカラを畏れるものです。それは生き抜くための本能」
自然災害やヒトでは説明できない事象は神や精霊の怒りとして畏怖し、祀りあげる。
だが、それが目に見える――実体を持つものだったならばどうか。
畏怖は迫害という形を成して現れた。
「我ら一族は、長い歴史の中で迫害を受け、幾多の血を流しました。ヒトからすれば魔族も魔術師も、さほど変わり無いのでしょうね。ですから、魔術師は皆、ヒトが嫌いなのです」
「……」
ヒトとは本当に都合の良い生き物だ。目に見える異形は迫害し、見えぬものは祀り上げ、代わりにチカラを借りる。
脅威が去れば、過去の過ちなど忘れて英雄だなどと称賛する。
エレーナ様は言葉が出ないようだ。
魔術師の間で口伝されてきた真実は、彼女にとって残酷すぎたのかもしれない。
ただ、この事実を話したことは後悔していない。もし、エレーナ様が後々この世界に入った時に真実を知らないとなれば、手痛い洗礼を受けることは間違いないからだ。
エレーナ様は、この真実をどう受け止めるか。
私は答えを待った。
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mokuji
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