002
『…エルガは、王であるそなたを試したのだ。この事態にどう自分に役割を振ってくるか、な。だが、力添えしようなんて思っておらぬ。そうだろう?』
エスタリアが自分に酔いしれるエルガを現実に引き戻す。
主に相手にされなかったエルガは、エスタリアの反応に慣れているのか特に気を悪くした様子もなく、彼女からの問いに飄々とした態度で是と答えた。
「…貴方は確かに、ナディールの血を引いておいでですが、それだけでは私が動く動機にはなりません。『当主』という肩書きが必要なのです」
ナディール家当主は、初代の嫡孫の中でも、一族に認められた者しか名乗れない。
ナディールという家名は、五十年前にエスタリアが死んで以降、名乗れる者は誰もいなかった。
いくら、ナディール直系の血を身体に流していようと当主でなければ、彼という最強の駒は動かせないのだ。
「…初代と我が祖父の間で交された誓約によるものです」
世代を超えて受け継がれてた誓約は、エルガにも根付いている。
『エルガ。そなたも魔王の息子を倒すためにチカラを貸してくれ』
「御意に」
エスタリアが当主としてエルガに命じると、彼は即答で彼女に従順の意を示した。
エルガの瞳には、迷いや不満などは見て取れない。
これが、彼を問答無用で従わせる当主の力なのだと見せつけられた気がした。
『…時間のようだな』
エスタリアがぽつりと呟くと、元々透けていた彼女の姿がさらに薄くなり、光輝く粒子となって消えていった。
「…エスタリア様はひどいお方だ。ああやって魂駆けることができるのに、私の前に姿を現して下さらない」
エルガは、苦笑いを浮かべてそう言うと、相談役の姿へ戻る。
そのまま扉の前まで行き、来たときと同じ様に一礼して静かに出ていった。
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mokuji
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