003

アルトの前には幾つかの選択肢が広がっている。

逃げるか。守りに入るか。戦うか。

国を治め、国民の命を預かる者として、失敗や逃避は許されない。さもなくば、何百万という国民の命が消滅する最悪な事態に陥る。
かつて、自分と同じ選択を迫られた王は、戦う事を選んだ。初代ナディール当主も、また然り。

ならば、自分は―――。


思考の波の中から一瞬で辿り着いた答えを、唇に乗せた。

「私は、戦う事を選びます。魔王と戦える者がまだ存在しているのに、何もしないで逃げる、そんな無責任な事はしたくありません。魔術庁に勅命を出し、対策を立てます」

アルトの答えを無表情で聞いていたエスタリアは、綺麗な笑みを浮かべた。

グレイルも、笑みを浮かべ、眩しそうにアルトを見ていた。

……どうやら、二人にとって満足のいく回答だったらしい。


『陛下のその考えを、ライルやエルガに伝えるといい。彼らは、最善の策を導くだろう。あと、シャルトはラディアに祭司の補佐に付くよう伝えよ』

「承知いたしました」

『当日、奴は絶対に仕掛けて来る。五十年という節目、ちょうど結界の緩む絶好の機会を逃すはずがない。………幸い、此方もライルやシャルトといった力のある者が揃っている故、対抗できるであろう。万が一な事があったその時は―――私が出る』

エスタリアは、そう言うと音もなく消えた。


まだ、この時点で誰もエスタリアの策を知る者はいなかった。


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mokuji
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