002

エスタリア・フィスティルが始まって以降、祭司が危険な目に遭うことは何度かあったという。

エスタリアは、今までで一番危険だと言った。しかも、今回は特殊だ。


だが、その焦りも一瞬のこと。流石というべきか、数十年、玉座にいた者は冷静だった。

「アルト。落ち着くんだ。――エスタリア、一つ聞いてもいいかい?」

『私が答えられる範囲でならな』

「『奴』って誰なんだ?危険であることは分かる。それに対して貴女がすでに策を巡らしたことも。だが、奴という存在だけは見えてこない」

緑と紫の視線が真っ向から絡む。

沈黙、数秒。


エスタリアが口を開く。

『……奴とは、魔王の切り札のこと。彼の最後の一手だ。己が滅びても確実にチカラを受け継ぎ、魔族の悲願を叶えるために遺した、息子』

今になって漸く分かった。何故、シャルトが表情を歪めたのか。

ヒトと魔族の戦いは、五十年前に決着がついたが、魔術師にとってまだ戦いは終わってないのだ。

「…魔王の息子、か。ならば、我らが為すべきことはただ一つだろう?エスタリア」

『そうだな。――アルトに、いや、国王陛下に魔術師として問おう。――この状況を如何にして打開する?』

父の言い方から察すると、すでに彼の中に答えは出ているのだろう。



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mokuji
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