001

5,懐古2



『動いたぞ。《奴》が』


エスタリアがもたらした情報を正確に把握できたのは、シャルトしかいなかった。

「エスタリア様。それは本当ですか?」

『ああ。間違いない。私の張り巡らした結界に、奴が触れた』

魔術師同士の会話に、グレイルとアルトは完全に蚊帳の外だ。

それよりも、奴とは一体何者なのだろう?

シャルトが顔をしかめる。普段、笑みを絶やさない彼にしては珍しく感情が顔に現れていた。

「今この状況で見つかるとは…小癪な。まぁ良いです。僕の前に立ちはだかる邪魔者は、消すだけですから」

主の殺気に反応してか、彼の守護獣が足元に擦り寄る。

その様子に、エスタリアは苦笑いを浮かべた。

『若いな、シャルト。…そなたが強いのは分かっているが、残念ながらシャルトでは倒せぬ。魔族を倒すのには、経験が必要だからな。それと、奴は我ら魔術師の血も引いている故に、チカラは未知数だ』

現在、魔族を倒せる者は、ライルとあともう一人。

その一人は、恐らく誰も知らない。

『ライルの他に倒せる者は…常に陛下の側にいる』

「私の側に?」

『今は、王宮相談役と名乗っていたか』

アルトは、彼の人を思い浮かべる。

自分の身長の半分しかない老人は、皺だらけの顔をさらにしわくちゃにして笑う。腰が曲がっているし、杖も付いている。

魔族を倒せるとは到底思えない。

「エルガ殿が…ですか?」

『見た目に騙されるな。エルガは、奴に一番近い。しかも実力は本物だ』

エルガは、先々代から三代に渡ってナディール家の執事として仕えていた。

当主に絶対の忠誠を誓い、補佐として数多の魔族を屠ってきた歴戦の猛者だ。

……性格には難ありだが。

『グレイル殿下、アルト陛下。今回のエスタリア・フィスティルは……今までで最も危険なものになる』

名を呼ばれた二人は、はっ、と息を飲む。

アルトは、焦燥に駆られた。


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mokuji
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