001
シャルトを先頭に、エスタリアの墓所に向かう。
神殿の中は、複雑な魔術が施されていた。常人が入ったならば、永遠にこの中をさまようことになるだろう。
ナディール神殿は、長であるシャルトを筆頭にわずか三十人程度の神官たちしかいない。
外観は単なる城であるが、そこは代々ナディール当主に受け継がれていた城だ。堅牢な護りを誇る。
一歩一歩近づくにつれて、空気も神聖なものに変化していく。それと同調するかのように、アルトの鼓動も早鐘を打っていた。
伯母に聞きたいことは、たくさんある。ありすぎて、整理しきれない。
思考のループにはまっていると、前を歩いていた父にぶつかりそうになった。
慌てて我に返れば、シャルトが、ある壁画の前で止まっていた。
見上げれば、そこには金髪の娘と巨大な黒い獣、炎を纏う紅き龍の図。
この場面は――。
初代と魔王の決戦、この市の名前の由来となった『アルスの戦い』の壁画。
庭園の像が『始まり』であるなら、この壁画は『終焉』を表している。
「ここがエスタリア様の眠る墓所です」
シャルトがスッ、と壁画に手を触れると、壁画に埋め込まれていた紅玉と紫水晶が輝く。
壁画が重い音をたてて横に移動して、広間が目の前に現れた。
中に入れば、生前のエスタリアを模した銅像が中心にあり、台座の足元に白い棺が納められていた。
それ以外に何もない。
(エスタリア・ナディール、享年二十歳…か)
アルトは、台座の足元にある銅板に目を向ける。
彼女の功績が書かれた一番最初の行を読み、彼女に思いを馳せた。
二十歳は、成人したといえども、子供から抜けきれていない部分もある。
アルトは、自分が二十歳の頃を思い出す。
……王位を継ぐことは決まっていて、勉強中だったが、現在のことで精一杯だった。けれども、その中で未来への希望や夢が溢れていたように思う。
母が言うには、エスタリアは物心ついた頃には、自分の命数を知り、どのように命を落とすか分かっていたという。
先が見えているというのは、とても恐ろしいことだ。刻一刻と迫る死に、彼女は日々どのように感じて生きていたのだろうか。
「一年ぶりだね。エスタリア。今年もお邪魔するよ」
父が、棺に向かって声をかけると、それに返す声があった。
『…グレイル殿下?』
ふわり、と蒼い光が目の前に突然現れて、一瞬にして人の形を取った。
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mokuji
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